殿下を庇い、ファイサルが腹を斬られたのだ。足手まといになるものの、この男がいなければ船が飛ばない。レイスならファイサルを担いで走れたかもしれないが、ファイサルの貞操を守ってやらないと先が不安すぎた。重ねて言うと、この男がいなければ飛空艇が飛ばないのだ。


「バカ言わないで。まったく……戦艦の元艦長に楽団出身者がいると聞いて期待して連れて来たのに、あっさり斬られるなんて見損なったわ。弛み過ぎよ」

「怒るなら俺を担がず先に行ってくれ。痛いのに心まで傷つきたくない」

「とにかく手当しましょう」


氷の国は絶えず雪が降っていて、それだけで砂漠生まれの私たちには過酷な環境だった。破傷風は免れても、凍傷で四肢を失いそうだ。

暗い路地に連れ込んで、廃墟を探した。
機械開発の失敗を重ねたせいで、廃れた区画が多い。これだけ寒ければ燃料も充分に調達できないのではないかと、素人ながら思い至る。