「だから言わんこっちゃない。レイス、殿下をお願い」

「わかったわっ!」


暗い路地で二手に分かれ、私たちは郊外の森を目指していた。

他国によからぬ動きがないか探る間者の役目も帯びている私だったが、この氷に覆われた楽園はさしずめ死の国とも言えるだろう。国に問題はない。ただ、東の果ての遠き国とを隔てる氷海の最中で、私たちが歓迎されなかったというだけだ。
 
私たちは肌の色が違う。
疫病を齎す悪魔だと石を投げられた。

国交を諦めて殿下を無傷のまま連れて帰る。
それだけが私たちの望みだ。


「……バディーア、俺に構うな」


二手に分かれたのは、追っ手の目を欺くためだけではなかった。