やばい。
なにか計算を間違えてしまったのだろうか。

焦りが顔に出たのか、王子が優しく笑って首を振った。


「なに、次の演目の件で打ち合わせがしたいらしい。よかったらその本も持って行って、読んで聞かせてやれ」

「はい。わかりました」


立ち上がって分厚い本を脇に抱えた。
王子が戸口に寄りかかって、私をじっと待っている。


「一緒に行こう。重いだろう」

「大丈夫ですよ。体力には自信がありますから」

「お前の上腕二頭筋と上腕三頭筋は今くらいが美しい」

「はぁ」


褒められているのか、なんなのか。


「帰りはファイサルに運んでもらえ」

「わかりました。じゃあ、お願いしま……」


チュッ。

バスィーム王子の唇が、唐突に私の唇を塞いだ。