中学に入学すると、岬は少し心の安住を得ていた。彩乃は岬が元通っていた私立のエスカレーター中学に進学し、岬は公立の中学に進んだからだった。中学では岬はその甘いルックスと優秀な成績、そして抜群の運動神経で瞬く間にその地位を高めた。屋敷に帰りさえしなければ、岬の王国は健在だった。

体育の時の成績が良かったせいで、バスケにバレーボール、サッカーにと練習試合のたびに助っ人に駆り出された。出場した試合では全て得点に絡み、応援に来ていた在校生は勿論、相手校の生徒からも注目の的だった。球技大会でも勿論クラスの皆から頼りにされたし、足も速いから体育祭でもリレーのアンカーだった。

そう、屋敷に帰りさえしなければ、である。

彩乃の執事をするために、好きな部活にも入れない。授業が終われば基本的に真っすぐ屋敷へと帰り、彩乃の帰りを待つ。彩乃が車で帰ってくるのを待って、まずお茶を淹れる。お茶の淹れ方なんて覚える必要もなかった筈なのに、今こうやって学校から帰ってリビングで寛ぐ彩乃の為にティーポットからカップに紅茶を注いでいる自分が嫌になる。