そう……。そうなのだ……。岬は王様から一転、彩乃の執事に成り下がったのだ。彩乃の父親の会社が岬の祖父と父の会社の一番大きな取引先だった。彩乃の父親から、借金の返済に協力する代わりに一人娘の彩乃に是非岬くんを、と要望があったとのことで来てみれば、猫目当てだとか……! しかもポジションは彩乃の執事……!

体の中に憤怒が駆け抜ける。何故俺がお前ごときに跪かなきゃならないんだ。そう言い放ってやりたかった。でも、過去の勢力図と現在の勢力図を鑑みれば、この結果を飲み込まなければならない。五億の借金の、半分以上を肩代わりしてくれるという約束に、岬は彩乃の前で腰を折って挨拶した。

「よろしく……、おねがいします……」

苦虫を噛み潰すなんてものじゃない。かつて下僕とも見ていた彩乃にこうべを垂れることの屈辱。微笑んだ口の端がぴくぴくし、こめかみは奥歯をかみしめすぎてずきずきと痛い。

「よろしくね」

彩乃は頬のてっぺんをつやつやさせて、にこやかに微笑んだ。