「岬くんが、言ったのよ……。執事は、信頼できる人にさせるものだって……。そして、主人は執事を好きなのだって……」

彩乃の言葉を聞いてしまうと、岬が意地を張っていたことが馬鹿みたいだ。彩乃は子供の頃の仕返しをしたかったわけではなく、信頼の証に岬を執事に雇ったのだ。

「彩乃さんは本当に世間知らずだったんですね」

子供の頃の言葉をそのまま信じて実践するなんて、本当に世間知らずだ。それでもその気持ちを嬉しいと思う。岬も勝手にやきもきしすぎた。

「僕も、彩乃さんの好きな人が誰なのか、学校で調べまわってしまいました」

微笑むと、彩乃が目を大きく見開く。

「……滑稽でしょう。でも止められなかったんです。自分でも不思議でした」

「……岬くん……」

本当に、まるで道化師(ピエロ)のように立ちまわってしまった。でも、この遠回りがなかったら、彩乃への気持ちに気付かないままだった。

また潤んできた彩乃の目を見つめて、岬ははっきりと言った。

「僕ら、勘違いが大きすぎましたね……。だから、最初からやり直しましょう」

「最初から?」

そう、最初から。

「僕は彩乃さんを、僕と対等な一人の女の子として見るし、彩乃さんはもう僕をお金で買わないでください」

「勿論……、勿論だわ……!」

彩乃の表情が、やっと笑みに代わる。じゃあ、と言って、岬は膝をついて彩乃の手を取った。

「彩乃さん。僕の彼女になってくれますか?」

甘い笑顔を見せると、彩乃が分かりやすく赤くなった。小さく、はい、と返事が聞こえて、岬は満足げに微笑む。

お前なんか、絶対に。






もう、放してなんかやらない――――。