「旦那様たちには、私から話しておきます。寝床は坊ちゃまのお部屋で宜しゅうございますか?」

「ああ、頼む」

即座に行動する大人を見て、漸く女の子の目つきが変わった。

「岬くん、今の人はだあれ?」

「うん? 今のは僕の執事で、長谷川。この屋敷で一番信頼してるやつだ。お父さまやおじいさまは、たまに僕が嫌だと思うことも言うけど、長谷川は僕のことが一番だと言って嫌なことは何一つ言わない。だから僕も長谷川の事は好きだ」

女の子はやっと目を輝かせて岬の言葉を聞いた。

「岬くん、すごいのねえ!」

女の子から称賛の声を聞けて、漸く岬の気分も良くなった。

「執事って、そう言うもんだからな。……ところでお前。猫が気になるなら、何時でも屋敷に見に来ていいぞ。僕は心が広いんだ」

えへん、と胸を張ると、女の子がぱっと明るい顔になった。

「ありがとう、岬くん! 大好き!」

そう言って、岬にぴょんと抱き付いてくる。ふわっと香る、甘いバニラアイスクリームの匂い。岬は驚いて、体を硬直させた。

これが、宮田彩乃(みやたあやの)との出会いだった――。