登校しながら考える。確かに、隣を歩く彩乃に元気がないように見える。何時もは機嫌よく岬の隣で喋っているのに、今日は授業のことについて二言三言、口を開いただけだ。

「彩乃さん」

岬が呼び掛けると、驚いたような表情をして彩乃が岬を見た。

「な、なに? 岬くん……」

本当だ、様子がおかしい。彩乃が岬に対しておどおどするところなんて、幼い頃から今まで一度も見たことなかった。

「体調でも悪いですか? 奥様が、彩乃さんが元気がないと心配してます」

「お母様が……」

そう言って、やっぱり元気なく俯く。

「クラスでいじめとかありましたか?」

そう聞くと、彩乃は、ううん、と首を振った。

「みんなやさしくて楽しい人ばかりよ、心配しないで」

心配しないでという言葉は、心配させない顔で言わなきゃいけない。そんな如何にも心配して欲しそうな顔で、心配するな等と言ってはいけない。

「彩乃さん。なにか、言いたいことがあるんでしょう。言ったらどうですか?」

どう、心配して欲しいのか、言ってみれば良い。どうせ岬は彩乃の執事だ。『お嬢様』のことは、世話しなくてはならない。それは彩乃が望んだことなのだ。