蝉が相変わらず、鳴いている。

 宇宙にも届きそうな入道雲が、空いっぱいに広がっていた。

 隙間から見える青空から、太陽の光が大地に届いている。

 コンクールの締め切りもあと少しで、追い込みに入りたいのにも関わらず、考えることがあり過ぎて集中することができない。

 めぐみの元に新しい仕事が舞い込んでいた。

 本当は仕事をあまり多く受け持つべきではないのだが、人手が足りなくなりどうしてもということだった。

 レストランの内装の仕事だった。

 今度赤坂にフランス料理の店を出すとのことで、できるだけパリで作られたもので内装を作りたいとのことだった。

「篠原ちゃん、そういうお店得意だったよね?」

 今月末で、田園調布の夫婦の仕事も無くなるめぐみとしては、新しい仕事はありがたかった。

 電話をかけてアポイントメントを取る。

 正午から銀座のホテルペニンシュラのラウンジカフェで会う約束をした。宮野敬太(みやのけいた)という男だった。

 朝までは晴れていたのにも関わらず、スコールのような土砂降りの雨が東京の街に降り注いだ。
 
 傘をさして、地下鉄有楽町駅から歩く。

 足元はすっかりずぶ濡れで気持ちが悪かった。

 打ち合わせだからと、少しだけヒールのある靴を履いてきたが、慣れない靴と雨のせいで、到着する頃にはすっかりとクタクタになっていた。

 約束の正午にはまだ時間があったものの、宮野は先に来て待っていた。

 大きな目玉のようなオブジェの前で、白髪混じりのその男は、ポロシャツにジーンズとラフな格好でめぐみを出迎えた。