午後になって、めぐみはFURADAのオープニングセレモニーに参加していた。

 柏木はアメリカの本社に行かなくてはならないと事前に聞いていたので、姿がいなくとも気にならなかった。

 しかし、柏木のいないFURADAはなぜか活気がないように思えた。

 その日は、新商品の発売もかぶせていたようで、雑誌で見かけない日はない元アイドルモデルも来ていた。

 彼女を一目でも見ようと、たくさんの人で賑わっており、イベントは人で溢れていた。

 店内のイメージをまとめたのは、めぐみだったのでそのイベントで少しだけ話をすることになっている。

 紙を見て話をしてはいけないと思ったので、練習した通りに話した。

 少しだけ柏木の意見も入っている。

「ありがとうございました!」

 進行役の司会者に言われて、壇上を降りる。ここで役目は終わりだ。

 めぐみはイベントをギャラリーの後ろから見ようと、足を向ける。

 すると、そこに思いがけない人物が立っていた。ある程度、予想は出来ていた。考えたくなかっただけだった。

「めぐみ……」

「悠也……」

 逃げることは許さないと言った雰囲気だった。身動きの取れないめぐみを逃してくれる柏木はいない。

「元気そうでよかった」

「……」

 思ったように言葉が出ない。何を言えばいいのかも分からなかった。

 言葉を紡ごうとすればするほど、息が苦しくなってくる。

 甦って欲しくない記憶の羅列が脳内で溢れかえりパンクしそうだ。

「このイベントが終わったらでいい。俺はめぐみと話がしたい」

 悠也の言葉に反応しないでいると、「篠原さん」とイベント関係者に名前を呼ばれた。

「出口で待ってるから」 

「……」

「待ってる」

 真剣な表情を浮かべて言う悠也はめぐみの知っている彼ではなかった。返事が出来ないまま、連れて行かれるようにしてその場を離れる。

 どうして今更になってこんな風に再会してしまうのだろう。

 柏木と幸せな日々を過ごしている。

 それでいいじゃないか。

「もうここには来ないでちょうだい。あなたがこの子の傍に来ると、辛いのよ」

 一人の女性の言葉が脳裏に過る。

 花火の音と、祭りの喧騒。

 人々の笑い声。

 いやだ、思い出したくない。せっかく記憶を消して生きてきたのに。

 どうして、こんなに息がつまるのだろう。

 どうして再会などしてしまったのだろう。

「お前のせいだ、めぐみ」

 まるで先ほどの出来事のように、様々な言葉が鍵をかけた記憶の引き出しから溢れ出る。

 このまま逃げてしまいたい。

 逃げてしまった方が楽に決まっている。

 頭の中が霞んでいく。

 眩暈がしたと思ったら、視界が急に反転した。