胡桃ちゃんには謝る事が出来たけれど、
藤原と森さんに謝る勇気は未だ無かった。
あの時から2ヶ月近く経とうとしていた時、私は同じ場所で森さんを見た。
あの日と同じように本を読んでいた、デジャブのように・・
私の心臓は洋服の上からでも波打っているのが
解る位にドキドキする。
その、音を鎮めたのは、森さんの髪の毛だった肩の所で切り揃えられていた。
「森さん・・」
その声に、ユックリ本から目を離し、私を見るその顔は同性から見ても綺麗だ。
(私、この人の何を見て、隣は似合わないと思っていたのだろう)
彼女は私だと気が付き、少し緊張した笑顔を浮かべ、
立ち上がろとしていたその隣に座った・・
自分でもどうして座ったのか解らなかったし、
謝る勇気なんて未だ無かったのに、声を掛けた事に自分を呪った。
横に座って表情が見えないからだろうか、自然と
「ごめんなさい」と口にしていた。
森さんの肩がピックっと動いたのが伝わる・・
その肩から彼女の緊張が伝わる・・そうだよね。
私以上に緊張するよね・・私は彼女を理由が解って敵視していた。
彼女は理由が解らなく敵視され続けてきたのだから・・
「私、藤原が小学校一年生から好きだったの。
私が隣に居るのが当然だと思って、中2年まできたから・・
突然、隣に森さんが並んでショックだったの。
藤原の気持ちなんて考えないで、隣に居るのは私しか居ない、
と思い込んでいたの。それでも振り向いてくれなくて。
だから森さんを真似していた・・気持ち悪かったよね」
「私も海斗が好きなので気持ち解ります。
前も話しましたが、小学校や中学校に一緒に登校している姿に
何回も泣きました。」
森さんも泣いた事があったのかと少し驚いた・・
なんの不安も無く隣に居たのかと思い込んでいた。
「森さんの辛さを知ろうとしなくて、ゴメンね。」
「羨ましかった・・同級生の斉木さんや、海斗が付き合っていた
人が・・どんな事をしても2年の差は縮まらないって小学生の
時に思い知りました。」
「藤原が付き合っていた人?」
「はい・・」
「え・・それって・・」
「他校の人で、スラっとした人でした。偶然、駅で見かけたことがあるんです。
母が用事があって塾に1人で行かないといけなかった時・・
小学生の私は携帯電話なんて持っていない時で、海斗は良くメールしては
微笑んでいました。あの時に私は1度失恋しているので、本当に斉木さんの
気持ちが良く解ります。」
海斗が他校の生徒と付き合っていたなんて知らなかった・・
森さんはきっと同じ時間を過ごしていたから気が付いたんだろう・・
単純に同じ時間を過ごしていた森さんに嫉妬していたが、
一緒にいるからこそ解る事もあり、それによって彼女も傷ついていたんだ。
「辛かったね・・」
「ですね・・だから私も海斗が本当に私と一緒に登校してくれるのか
当日の朝まで不安でした。意気地なしなので確認も出来なくて」
自分の12歳と森さんを重ねた。私は当時の藤原の隣を歩くのは当然だと
思っていたから、時間さえ間違わなければ大丈夫と、信じて疑わないで過ごし、
その期待も裏切られなかった。
でも、彼女は違った。他の女性の陰に怯えていた。
確信も無く、その日を迎えたのだろう・・その勇気に完全に敗北を感じる。
20歳の私が経験した事を10歳そこそこで森さんは経験していた。
完敗だ!
「藤原のその他校の生徒ってどうなったか聞いた?」
「聞いてません。怖くて・・」
「そっか・・・恋ってなんなんだろうね?」
「理性を無くすものですかね?」
「クスッ 森さんでも理性無くすの?」
「無くしますよ。しかも私、凄く重たい女の自覚有るので」
「私も結構重たい女だわ~」
「恋する女の子は皆、そうですよね。ドライでなんて好きな人には
居られないですよね。」
そう言って恥ずかしそうに笑う森さん。
こんな出会いじゃなかったら友達になれたかもしれない・・
そう思った。
「森さん、本当にゴメンね。
今更だけれど、森さんと藤原のピアノ好きだった。
勉強も大変だろうけれど良いお医者さんになってね。」
「斉木さん、有難う。斉木さんも頑張ってください。」
私達はもう、交わる事は無いと思う。
沢山、彼女を傷つけたのに私を責める事無く許してくれた・・
年下なのにシッカリしていたから藤原はそんな森さんを選んだのだろう・・
でも、腑に落ちないのは藤原が他校の生徒と付き合っていたという話。
もし、事実なら一寸許せないと思ったのはもう、森さんに妬みがない
証拠なのかな?



