その時「悪い、こいつが迷惑かけたな!」
そこに突然現れたのは、岩見 正輝先輩だった。
何時も私に意地悪を言うこの人に、今の私を見られたのは、
この状況でもマズいと思った。
岩見先輩は二人に向かって
「岩見です。一応、君たちの先輩なんだけど・・」
「藤原です。」
「森です」
「接点は在りませんでしたが、存じてます。確か2年先輩で合っていますか?」
「年齢は2歳上だが今は 1学年しか違わない。」
そう言いながら、岩見先輩は右手を私に差し出し、
立ち上がるように促している。
後からこの人に何を言われても、ここに居るよりはマシだと思い、
その手を掴む。
「こいつが迷惑かけてごめんな。今はきっと、こいつも理解出来ない
だろうけれど、理解させるから。そうしたら二人に謝らせに行くから・・
そんときは、話きいてやってくんないか」
と頭を二人に下げた岩見先輩。
そこには何時も、私をからかう嘲笑は見えなかった。
岩見先輩は私の腕を掴んだまま、誰も居ない体育館に連れて来た。
私はそこに立ちつくしたまま、下を向いて、
涙を体育館の床に落としていた。
何分そうしていたのだろう・・
少し落ち着きを取り戻した私に
「落ち着いたか?」
声に出来ず、ただ頷く。
「お前,随分拗らせたな・・何時から?」
「小学校の一年生から・・」
「は~ 初恋か?」
又 頷く。
「告白したのか?」
「してない」
「なんで」
「友達じゃなくなるのが怖くて」
「で、何時も一緒にいたあの子になろうとしたの?」
又頷く。
「で、うまくいったの?」
(結果知っていて意地悪な質問)首を横に振る。
「そんなに頑張ったのに、なんでだと思う?」
「私があの子じゃないから」
「それは合っているけど、間違っている」
「なんですか、その頓智みたいな言い回し・・」
「心愛の髪型はどうして、その髪型なの?」
「それは・・あの子が同じ髪型だったから・・」
「本当に同じ髪型?俺が今日見た感じだと、全然似ていなかったよ。
あの子腰まで長かったよね」
(確かに・・)
「この間ね、学食で、あの二人に友達が何人か加わって、
食事をしていたんだよ。その時にね、そのうちの一人が
彼女の髪の毛を褒めたんだよ『長くて綺麗な髪の毛』と・・
そうしたら彼女は『有難う。でも、もう直ぐバッサリ切りますよ』
と口にしたんだよね。勿論、皆一様に『何故?』となるよね。
なんて答えたと思う?」
「解らない・・そもそも短くしたいからとか?」
フっと鼻で笑われた・・(悔しいけど解らない)
「あの子はね『ヘアードネーションにするつもりなんです。』と言っていたよ」
「ヘアードネーション?何ですかそれ?」
「主に小児癌は、治療の一環で髪の毛が抜けてしまうよね・・
その子達のウィッグを作る為に、自分の髪の毛を寄付する運動だよ。」
(ヘアードネーションの言葉さえ知らなかった)
「彼女の行動には信念があるように俺には映った。
ちょっと前まで高校生だった森さん・・
あの長さに、一長一短では出来ないよね?それを実行に移す信念が、
心愛に無くて、森さんにあるのもの・・そして森さんは医学部だよ・・
それは藤原君を追いかけているからかもしれないけれど、
目指しています。ハイどうぞと行ける学部じゃないよね?
心愛は森さんに努力していない!って言ったけれど本当にそう思う?」
私は思い出していた・・彼女は高校の入学式でも新入生代表だった。
ピアノは年々上手になっていたし、医学部に入学したって事は
5番以内の成績を何年もキープしていたのだ・・
そう知っていて、知らないフリをしていた。
藤原と手を繋いでいたあの日も、医学部への内部進学が決まっていた
筈なのに、あの子は予備校から出て来た・・
通う必要が無いのに通っていた・・
藤原はそういう彼女に惹かれていたのだ・・見かけじゃなくて・・
だから、私がどんなに真似しても、彼に思いが届く事はなかったのだ。
彼は彼女の中身を見ていたのだから・・
そんな簡単な事を、人に諭されるまで気が付かないなんて・・
愚かだ・・そう、色々なことが解った・・解ったけれど
私の報われなった恋を、吹っ切れる程には未だならない未練がましい私・・
「とりあえず飯でも食いに行くか・・奢ってやるよ」
「岩見先輩、なんでそう優しくしてくれるのですか?」
「ま、俺も初恋を拗らせた口だからかな?お前ほどじゃないけどな・・
だから、解るんだよ・・拗らせると何も見えなくなる事が」
「返す言葉もありません・・」
私はその日 岩見先輩がご馳走してくれた牛丼を、泣きながら完食した。
「失恋しても食欲が落ちない女って初めて見たわ~」
と半分呆れながら笑って話すその言葉に、棘は無かった。
私は翌日から3日間、学校を休んだ。
合わせる顔が無いからとかでは無くて、熱を出した・・
岩見先輩に連絡すると「知恵熱か?」とのメッセージと、
大笑いしているスタンプが送られてきた・・
私は、そのぶっきらぼうな言葉が嬉しかった。
そして私は、そんな遣り取りさえ藤原とした事が無かったことを
今更ながら気が付いた・・
(土俵にすら乗れてなかったんだ・・)
そう思うと又、涙が零れた。
思い出し、涙し、寝る・・を三日間して過ごした。
岩見先輩に言われたように、しっかり食事はとっていた・・
復帰日に体重計に乗って、変わらない体重に自分で呆れた・・
その事を岩見先輩にメッセージを送ると
『マジか』と吃驚したスタンプの返信に笑える自分がいた。
失態を犯した日から二週間後、私は、恐る 恐る 胡桃ちゃんに
メッセージを送った。その履歴を見て私は吃驚する。
私から胡桃ちゃんへメッセージを送ったのは、高校三年生の春が最後だった・・
いつも胡桃ちゃんから、心配しているのが滲むメッセージが入っている。
それに、お座なりなスタンプで返信している自分を、
今更ながら恥じた・・
「会いたい」
自分の今までの行動を考えると、ちゃんとしたメッセージを送るべきなのは
解っていたけれど、言葉が見つからない・・
打っては消しをひたすら繰り返し、簡素な言葉しか紡げない。
そんな無骨なメッセージに直ぐに既読がつき
「うん。いつでも良いよ~ 今すぐ会おうか?」
と優しい返信。
私の犯した失態を知らない筈が無いのに、短いメッセージからは、
溢れんばかりの思いやりが、込められていた。
私はこの優しさに気が付かないフリをし続けた。
謝っても許してくれないかもしれない
でも、許してくれたら又、友達になりたかった。
そこに突然現れたのは、岩見 正輝先輩だった。
何時も私に意地悪を言うこの人に、今の私を見られたのは、
この状況でもマズいと思った。
岩見先輩は二人に向かって
「岩見です。一応、君たちの先輩なんだけど・・」
「藤原です。」
「森です」
「接点は在りませんでしたが、存じてます。確か2年先輩で合っていますか?」
「年齢は2歳上だが今は 1学年しか違わない。」
そう言いながら、岩見先輩は右手を私に差し出し、
立ち上がるように促している。
後からこの人に何を言われても、ここに居るよりはマシだと思い、
その手を掴む。
「こいつが迷惑かけてごめんな。今はきっと、こいつも理解出来ない
だろうけれど、理解させるから。そうしたら二人に謝らせに行くから・・
そんときは、話きいてやってくんないか」
と頭を二人に下げた岩見先輩。
そこには何時も、私をからかう嘲笑は見えなかった。
岩見先輩は私の腕を掴んだまま、誰も居ない体育館に連れて来た。
私はそこに立ちつくしたまま、下を向いて、
涙を体育館の床に落としていた。
何分そうしていたのだろう・・
少し落ち着きを取り戻した私に
「落ち着いたか?」
声に出来ず、ただ頷く。
「お前,随分拗らせたな・・何時から?」
「小学校の一年生から・・」
「は~ 初恋か?」
又 頷く。
「告白したのか?」
「してない」
「なんで」
「友達じゃなくなるのが怖くて」
「で、何時も一緒にいたあの子になろうとしたの?」
又頷く。
「で、うまくいったの?」
(結果知っていて意地悪な質問)首を横に振る。
「そんなに頑張ったのに、なんでだと思う?」
「私があの子じゃないから」
「それは合っているけど、間違っている」
「なんですか、その頓智みたいな言い回し・・」
「心愛の髪型はどうして、その髪型なの?」
「それは・・あの子が同じ髪型だったから・・」
「本当に同じ髪型?俺が今日見た感じだと、全然似ていなかったよ。
あの子腰まで長かったよね」
(確かに・・)
「この間ね、学食で、あの二人に友達が何人か加わって、
食事をしていたんだよ。その時にね、そのうちの一人が
彼女の髪の毛を褒めたんだよ『長くて綺麗な髪の毛』と・・
そうしたら彼女は『有難う。でも、もう直ぐバッサリ切りますよ』
と口にしたんだよね。勿論、皆一様に『何故?』となるよね。
なんて答えたと思う?」
「解らない・・そもそも短くしたいからとか?」
フっと鼻で笑われた・・(悔しいけど解らない)
「あの子はね『ヘアードネーションにするつもりなんです。』と言っていたよ」
「ヘアードネーション?何ですかそれ?」
「主に小児癌は、治療の一環で髪の毛が抜けてしまうよね・・
その子達のウィッグを作る為に、自分の髪の毛を寄付する運動だよ。」
(ヘアードネーションの言葉さえ知らなかった)
「彼女の行動には信念があるように俺には映った。
ちょっと前まで高校生だった森さん・・
あの長さに、一長一短では出来ないよね?それを実行に移す信念が、
心愛に無くて、森さんにあるのもの・・そして森さんは医学部だよ・・
それは藤原君を追いかけているからかもしれないけれど、
目指しています。ハイどうぞと行ける学部じゃないよね?
心愛は森さんに努力していない!って言ったけれど本当にそう思う?」
私は思い出していた・・彼女は高校の入学式でも新入生代表だった。
ピアノは年々上手になっていたし、医学部に入学したって事は
5番以内の成績を何年もキープしていたのだ・・
そう知っていて、知らないフリをしていた。
藤原と手を繋いでいたあの日も、医学部への内部進学が決まっていた
筈なのに、あの子は予備校から出て来た・・
通う必要が無いのに通っていた・・
藤原はそういう彼女に惹かれていたのだ・・見かけじゃなくて・・
だから、私がどんなに真似しても、彼に思いが届く事はなかったのだ。
彼は彼女の中身を見ていたのだから・・
そんな簡単な事を、人に諭されるまで気が付かないなんて・・
愚かだ・・そう、色々なことが解った・・解ったけれど
私の報われなった恋を、吹っ切れる程には未だならない未練がましい私・・
「とりあえず飯でも食いに行くか・・奢ってやるよ」
「岩見先輩、なんでそう優しくしてくれるのですか?」
「ま、俺も初恋を拗らせた口だからかな?お前ほどじゃないけどな・・
だから、解るんだよ・・拗らせると何も見えなくなる事が」
「返す言葉もありません・・」
私はその日 岩見先輩がご馳走してくれた牛丼を、泣きながら完食した。
「失恋しても食欲が落ちない女って初めて見たわ~」
と半分呆れながら笑って話すその言葉に、棘は無かった。
私は翌日から3日間、学校を休んだ。
合わせる顔が無いからとかでは無くて、熱を出した・・
岩見先輩に連絡すると「知恵熱か?」とのメッセージと、
大笑いしているスタンプが送られてきた・・
私は、そのぶっきらぼうな言葉が嬉しかった。
そして私は、そんな遣り取りさえ藤原とした事が無かったことを
今更ながら気が付いた・・
(土俵にすら乗れてなかったんだ・・)
そう思うと又、涙が零れた。
思い出し、涙し、寝る・・を三日間して過ごした。
岩見先輩に言われたように、しっかり食事はとっていた・・
復帰日に体重計に乗って、変わらない体重に自分で呆れた・・
その事を岩見先輩にメッセージを送ると
『マジか』と吃驚したスタンプの返信に笑える自分がいた。
失態を犯した日から二週間後、私は、恐る 恐る 胡桃ちゃんに
メッセージを送った。その履歴を見て私は吃驚する。
私から胡桃ちゃんへメッセージを送ったのは、高校三年生の春が最後だった・・
いつも胡桃ちゃんから、心配しているのが滲むメッセージが入っている。
それに、お座なりなスタンプで返信している自分を、
今更ながら恥じた・・
「会いたい」
自分の今までの行動を考えると、ちゃんとしたメッセージを送るべきなのは
解っていたけれど、言葉が見つからない・・
打っては消しをひたすら繰り返し、簡素な言葉しか紡げない。
そんな無骨なメッセージに直ぐに既読がつき
「うん。いつでも良いよ~ 今すぐ会おうか?」
と優しい返信。
私の犯した失態を知らない筈が無いのに、短いメッセージからは、
溢れんばかりの思いやりが、込められていた。
私はこの優しさに気が付かないフリをし続けた。
謝っても許してくれないかもしれない
でも、許してくれたら又、友達になりたかった。



