同じクラスになって解った事が沢山あった。
彼は運動神経も良く、音楽も図工も書道もそつなくこなしていた。
なによりも頭が抜群に良かった。

そして一番驚いたのは人気者だった事。

登校の時に自分から話す事が無い彼を勝手に
友達の居ないタイプだと思っていたのに彼の周りは男女ともに集まっていた。

率先して話している風では無いのに・・・

彼は私の中の人気者のイメージを払拭させた。
ただ、そこに居るだけで人が集まる・・世の中にそんな人間がいるのか、
これがカリスマだと少し大人になって言葉をあてはめられた。


同じクラスになってから、毎日毎日ジリジリしながら
「海斗」と呼ぶ機会を伺っていた。

そんなある日クラスでも可愛いと評判の女の子が彼に
「ねぇねぇ 海斗君と呼んでも良い?」
と女子の私でもドキっとするような笑顔で彼に問うた。

私はその笑顔に魅了されながらも先を越された悔しさで唇を噛んでいた。

あんな可愛い子に言われたら誰だって「うん」と言うに決まっている・・

私は彼の特別にはなれなかったと敗北感を味わいつつあった時

「ゴメン。僕名前で呼ばれるのは好きじゃないんだ。
名字なら呼び捨てでも構わないから名前だけは呼ばないで」
と此方も女子全員がキュン死しそうな笑顔で答えていた。

怒られたり、嫌な感じだったらあの子も傷ついただろうが
その言葉には相手を傷つける要素は無かった。
単純に呼ばれるのが嫌いとクラス全員が認識させられていた。

後で聞いた話だが毎年この状況は繰り返されるらしく
一度でも彼と同じクラスになった人には
「今年もか~」と思うらしい・・

その時は本当に安堵したが帰宅して冷静になってから
私のミッションはクリアできない事に気が付き絶望した。

頭の中で彼の言葉をリフレインし、一縷の望みを託し翌朝、
私は「藤原、おはよう」と声を掛けた。
彼は少し目を細めたが「おはよう 斉木」と返してくれた。

彼が初めて私を呼んでくれた瞬間だった。

同じクラスになって彼の頭の良さを目の当たりにし、
昔の彼が言っていた(行きたい学校)の事が意識下に戻ってきた、
彼は受験する・・・

本能が告げていてその日のうちに両親に

「中学受験したいから塾に行かせて欲しい」と懇願した。

父はサラリーマン、母もパート勤務。
小学生の私には私立中学に行く事の金銭的負担など考えなしだった・・

両親は「少し考えさせて」と・・

その時は直ぐに「いいよ」と言ってくれない両親に
少し腹が立って仕方が無かった
(私が彼の隣に居るには必要な事なのに・・。)

その後、父に行きたい学校を問われ「明応中学」とだけ話した。