駅の改札前を通り過ぎると、隼人は私を奥のベンチへ引っ張って行く。

そこでぎゅっと私を抱き締める。

「優香だ。俺、朝からずっと我慢してたから、もう家まで我慢できなかった。」

「私も隼人にずっとこうして欲しかった。」

隼人は不意に唇を重ねた。

「あんまり可愛いことを言わないで。まだ、家までは我慢しなきゃならないんだから。」

「そうだね。私、今日は電車で帰りたい。」

「タクシーの方が早く帰れるのに?」

「だって、家に帰ったら、隼人、すぐに野獣になっちゃうでしょ。それにタクシーだと、運転手さんに全部聞こえてるから、話すの恥ずかしいんだもん。だから、今日は電車で帰って、駅からの道も二人で歩きたいの。」

「分かった。優香がそう言うなら、そうしよう。
でも、帰ったら野獣確定だからな。今日は眠れない覚悟しておけよ。」

「分かった。でも、途中で寝たらごめんね。」

「途中で寝られるのは辛い。俺の力量不足ってことだから。」

「何言ってるの、隼人の馬鹿。」

隼人はもう一度私を抱き締めてから、駅の改札に
戻った。

ずっと握られている手は、やっぱり温かくて、安心する。