映画館は、日曜日ということもあってか、一段と混雑していた。
どこを見渡しても人、人、人。
「…まるでアリの行列だな。」
俺は小さく毒づく。
とりあえず、ポップコーンと飲み物を買おうと思い、ショップの方へ足を向ける。
そして、見つけた。
人混みの中で、彼女の姿を。
俺の、長年の想い人を。
桜庭音葉を。
音葉も、映画を見に来たのだろうか?
「おい、音、」
声をかけようとして、俺は片手を上げたまま凍り付いた。
音葉は、1人で来ていたわけではなかった。
誰かと一緒に、並んで歩いている。
誰…。
男。
音葉は、男と並んで歩いていた。
それも、楽しそうに、会話をしながら、笑顔で。
頭が真っ白になった。
映画館に、いい歳の女子が男と2人きりで来る。
これが意味するところは、つまり、
『デート』
そういうことなのか。
音葉と連れ添って歩いている男は、音葉の彼氏なのか。
音葉には、既に、そういう存在が…。
「あれっ、隼人?」
音葉が、不意に俺の存在に気づく。
彼女は屈託のない笑みを浮かべると、俺の方へ近づいてきた。
もちろん、あの男と一緒に。
「隼人じゃん!どしたの?隼人も映画鑑賞?」
「え、ああ…、まあ、そうだな。」
俺は音葉と目を合わせず、あいまいにうなずいた。
「音葉、この子、誰?」
音葉の隣にいる男が、興味深そうに俺を見る。
よく見れば、なかなかいい男だ。
顔は普通だが、悪くはない。
高身長で、スラっとした体形。
超絶美少女な音葉と並んでいても、何ら違和感ない、お似合いカップルに見える。
俺は、泣きたくなる衝動を抑えるように、下唇を噛み締めた。

