職員室に入り、越智先生の元へプリントを運ぶと、彼はあからさまに眉をひそめた。
「あれ…。これ、立花に頼んだと思うんだけど…。」
「立花さん、この後用事があるそうなんで、私が代わりに。」
「ああ、そう…。」
越智先生は、何とも言えない微妙な表情を浮かべた。
「じゃあ、私はこれで失礼します。」
私はそう言い切らないうちに、職員室を退室した。
廊下では、さっき踊り場でぶつかってしまった彼が待機していた。
「終わった?」
「はいっ。すみません、運ぶの、手伝ってもらっちゃって。」
「いいよいいよ。」
彼は大げさに、顔の前で手を振った。
「じゃあ僕はこれで。」
「はい。今日はありがとうございました。」
「うん。あっ…そうだ、君、名前聞いていい?」
「名前ですか?私は…1年の、桜庭音葉といいます。」
「さくら、ば…。」
気のせいか、彼は、少し目を見開いたように見えた。
「じゃあ、音ちゃんだね!」
「えっ…音ちゃん?!」
突然の『音ちゃん』呼びに驚く私を見て、彼は少し笑った。
「うん。音ちゃん。僕は、3年の岡田陣。覚えといてよ。」
「あっはい。岡田先輩…。」
「かたいなあ。陣くんでいいよ。」
彼は微笑むと、くるっと身をひるがえす。
そして肩越しに振り返ると、
「じゃあね。またどこかで会ったらよろしく。」
爽やかに笑い、廊下の奥へと去っていった。
…なんだったんだろう。
とりあえず、悪い人ではなさそうだった。

