「でも俺、暗い色も結構好きなんですよ」
「そうなんですか?」
本人はこんなにカラフルな色をまとっているのに?
内心でクスリと笑う。
そんなこと知る由もない彼には、伝えるわけにもいかないけど。
でも確かに、彼の身につけているものはダークな色が多いようだ。
それはビジネスマンとしての品位を保つためにも思えたが、きっとそれだけではないのだろう。
「ええ。黒とか、好きですよ。雪村さんは?」
「はい?」
「好きな色。何色がお好きですか?」
唐突に名前を呼ばれ、ドキリとしたわたしは、頬に熱いものが走ったように感じた。
「……ああ、色、ですね?わたしの好きな色は………」
質問を理解したものの、とっさには具体的な色が出てこない。
というのも、この特異体質ゆえ、その色その色に思うことがあったし、好印象もあれば、その逆もあったからだ。
何と答えようか思い巡らせていると、目の前に広がる虹色が、まるでわたしに訴えかけているように見えた。
「――――虹色」
「え?」
「虹色が、好きです」
彼は、自分が虹色をまとっているなんて知らないのだから、わたしの答えはトンチンカンにも聞こえたことだろう。
けれど優しい人だから、笑ったりはしなかった。
「虹色ですか……」
しみじみと言ったかと思えば、
「そんな風に答える人、はじめて会いました」
ぱあっと満面に咲いた笑顔に呼応して、彼の虹もふわっと広がった。
それはまるで、曇天の窓に掛かった虹色のカーテンのようだった。
それが、わたしと彼の出会いだった。
一生忘れることのない、大切な、人生を大きく変える出会いだったのだ。