「……ス……、リス……ア……ス……起きて、アリス……」

 ジョーカーお兄様の優しい声で目が覚める。どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

「ん……」

 私の名前はアリス。八歳の誕生日を迎えてから、今月で半年が経つ。
 でも……何だかおかしいの。漠然とした違和感が、影のようにつきまとう。

(なんだっけ……?)

 八歳、ジョーカーお兄様、アリス。

「おはよう、アリス。楽しい夢は見られたかな?」
「……お兄さま……本物のジョーカー、は……?」

 まだ少し重たい瞼を擦りながらそう問えば、お兄様はからからと笑いながら私の頭を優しく撫でた。
 ああ、わかったわ。

「……これは、夢なのよ」

 私の呟きを聞いて、目の前にいる“彼”は口元に弧を描く。

「いいや、これは『現実』だ」

 言うと同時に、彼はふわりと宙に浮き私を見下ろした。

「アリス、アリス……ゲームはお好きかな?」
「……ええ、好きよ。とってもね」
「それじゃあアリス、私たちとゲームをしようか」
「いいわよ、でも……」

 その緑の瞳をまっすぐ捕らえて、笑みを向けながらこう告げる。

「ジョーカー探しは終わり。私はもう、死にたいなんて思わない。だから今度は、みんなが笑っていられる楽しいゲームをしましょう」
「……ああ、喜んで」