暗い。寒い。怖い。
僕は死ぬのだろうか……いや、殺されるのだろうか……。
両手を後ろで縛られ、口にガムテープを貼られた少年の心をそんな感情が浸食する。





目の前には二人の男。
男達は小学校の下校中に少年を拐い、人質にした。
少年の父親は著名な人物で、跡取りとされる彼を誘拐して身代金を請求すれば多額の金銭が手に入る。
が、誘拐して身代金を受け取り、逃走まで成功する確率は極めて低い。
その証拠に、サイレンの音が近づいてきているのが聞こえた。






「お、おい!警察が来ちまったじゃねぇか!金は!?」






「振り込まれてねぇ……」






「だから、こんな誘拐なんて止めようって言ったんだ!成功しねぇじゃねぇか!」






男達は仲間割れを始める。
それを少年はただ見ていた。
いや、タイミングを見計らっていた。
――奴等の隙をつくタイミングを。






「もう終いだ……」





「おいおい、諦めんじゃねぇよ」






一人が蹲り、一人がそれを叱責する。
二人とも少年を見ていない。
――今がチャンスだ。
少年は外に向かって駆け出した。





しかし、すぐに男達に感付かれ、追いかけられる。
首もとを掴まれたかと思うと、そのままコンクリートの床へと押し付けられた。
その際、顔を擦り剥いたのか鋭い痛みを感じた。





「どうせ俺達はもう終わりだ。なら、お前を殺して……」





少年を押さえつけているのはさっきまで蹲っていた男。
その男はもう気が触れているのか目が血走り、普通の精神ではないように見えた。
もう一人の男が止めろと叫んでいたが、男には聞こえていないようだった。
ふと、男の手元でキラリと何かが光った。
――ナイフだ。






「恨むならお前の親を恨め。お前より金が大事だったんだ」





ナイフが少年の喉へ近付いてくる。
恐怖で身体が強張った。
死が迫っていた。
父は、両親は男の言うとおり息子の命より金の方が大事だったのだろうか?
そんな考えが脳裏を過った、その時――。