あの後、気位が高い侯爵家の令嬢が一歩前に出たのをきっかけに、数人の令嬢がレオンの元に押し寄せた。
あれが小鳥のさえずりだったら癒やされもするだろうが、結婚適齢期を迎えた女性のアピール攻撃では、辟易しても仕方ない。ただでさえ慣れない会話の連続に、レオンの目はみるみるうちに輝きを失った。
助けてくれ、という無言の訴えに耐えかねたイザベルは、さりげなく会話の矛先を変えようと試みようとしたが、すべて失敗に終わった。そして、早々に女性陣の輪から弾き出された。
公爵令息と婚約している小娘はお呼びではない、とばかりに。
血走った目で威圧されれば、イザベルといえども、強気に出られるはずもない。すごすごと後ろ歩きで退散し、レオンには心の中で詫びた。
ジェシカの元に行こうかと思ったが、彼女を崇拝する令嬢たちの壁は分厚く、近づくことすらできなかった。
そんなわけで、イザベルは婚約者がいる令嬢たちと世間話をして過ごし、今に至る。
夕日が沈みだし、それぞれ宮殿内のダンスホールに移動していく。
(レオン王子は無事かしら……)
ハーレム状態で連行されていったレオンの背中は、あっという間に小さくなった。ちらりと見えた横顔は虚ろだったから、心配は募るばかりだ。とはいえ、今できることといえば、強く生きて、と祈ることしかない。
イザベルは気を取り直して、人波とは違う方向へ足を踏み出した。
(ヒロインの登場シーンの背景は夕暮れだった。時間的にも、そろそろ来るはず!)
舞踏会から参加する招待客を迎えるため、天高くそびえ立つ正門は開かれたままだ。豪華にドレスアップした淑女とそのパートナーが、門を抜けて会場へと向かう。
その様子を眺めていると、不意に肩をポンと叩かれた。驚いて振り返った先にいたのは、燕尾服を着たジークフリートだった。
「あら、ジークではありませんか。お仕事は終わったのですか?」
「まぁな。遅くなってすまない。婚約者なのに、君を一人きりにしてしまって……」
ルドガーほどではないが、どことなく疲れた顔をしている。
優秀すぎるというのも大変だ。リシャールだって、執事見習いという立場のはずなのに、すでに彼の父の代役もこなしている。
「わたくしのことなど、どうぞお気になさらず。それに、在学中から頼られるなんて、一目置かれている証拠ではありませんか。ただ学園を卒業したら、もっと忙しくなりそうですけれど」
「うむ……そうだな。君との時間が取れないようでは、まだまだ精進が足りないな。善処しよう」
「え、いえ。そこまで気にしていただかなくとも」
まだ詫びようとする婚約者にストップをかけていると、周囲の雑音が大きくなる。ひそひそと噂をする声と視線が集まる先を見やれば、桜色の髪が視界に映った。
舞踏会から参加する淑女は大抵、パートナーを連れている。
腕を組んだり、男性に手をリードされたりしている中、噂の的になっている女性は一人で階段をのぼってくる。
ゆるくカーブされた長い階段を一段ずつのぼるさまは、ドラマのワンシーンのようだ。
初めての場所であるはずなのに、その足取りは優美だった。凜としたヒールの音が響く。歩くたび、アップした髪に挿した白い薔薇が揺れる。
(まさにゲームの入場シーンね。髪飾りの薔薇は、攻略中のキャラを示していたはず。つまり、今は白薔薇ルートだという証)
彼女の名はフローリア・ルルネ。真打ちの登場である。
あれが小鳥のさえずりだったら癒やされもするだろうが、結婚適齢期を迎えた女性のアピール攻撃では、辟易しても仕方ない。ただでさえ慣れない会話の連続に、レオンの目はみるみるうちに輝きを失った。
助けてくれ、という無言の訴えに耐えかねたイザベルは、さりげなく会話の矛先を変えようと試みようとしたが、すべて失敗に終わった。そして、早々に女性陣の輪から弾き出された。
公爵令息と婚約している小娘はお呼びではない、とばかりに。
血走った目で威圧されれば、イザベルといえども、強気に出られるはずもない。すごすごと後ろ歩きで退散し、レオンには心の中で詫びた。
ジェシカの元に行こうかと思ったが、彼女を崇拝する令嬢たちの壁は分厚く、近づくことすらできなかった。
そんなわけで、イザベルは婚約者がいる令嬢たちと世間話をして過ごし、今に至る。
夕日が沈みだし、それぞれ宮殿内のダンスホールに移動していく。
(レオン王子は無事かしら……)
ハーレム状態で連行されていったレオンの背中は、あっという間に小さくなった。ちらりと見えた横顔は虚ろだったから、心配は募るばかりだ。とはいえ、今できることといえば、強く生きて、と祈ることしかない。
イザベルは気を取り直して、人波とは違う方向へ足を踏み出した。
(ヒロインの登場シーンの背景は夕暮れだった。時間的にも、そろそろ来るはず!)
舞踏会から参加する招待客を迎えるため、天高くそびえ立つ正門は開かれたままだ。豪華にドレスアップした淑女とそのパートナーが、門を抜けて会場へと向かう。
その様子を眺めていると、不意に肩をポンと叩かれた。驚いて振り返った先にいたのは、燕尾服を着たジークフリートだった。
「あら、ジークではありませんか。お仕事は終わったのですか?」
「まぁな。遅くなってすまない。婚約者なのに、君を一人きりにしてしまって……」
ルドガーほどではないが、どことなく疲れた顔をしている。
優秀すぎるというのも大変だ。リシャールだって、執事見習いという立場のはずなのに、すでに彼の父の代役もこなしている。
「わたくしのことなど、どうぞお気になさらず。それに、在学中から頼られるなんて、一目置かれている証拠ではありませんか。ただ学園を卒業したら、もっと忙しくなりそうですけれど」
「うむ……そうだな。君との時間が取れないようでは、まだまだ精進が足りないな。善処しよう」
「え、いえ。そこまで気にしていただかなくとも」
まだ詫びようとする婚約者にストップをかけていると、周囲の雑音が大きくなる。ひそひそと噂をする声と視線が集まる先を見やれば、桜色の髪が視界に映った。
舞踏会から参加する淑女は大抵、パートナーを連れている。
腕を組んだり、男性に手をリードされたりしている中、噂の的になっている女性は一人で階段をのぼってくる。
ゆるくカーブされた長い階段を一段ずつのぼるさまは、ドラマのワンシーンのようだ。
初めての場所であるはずなのに、その足取りは優美だった。凜としたヒールの音が響く。歩くたび、アップした髪に挿した白い薔薇が揺れる。
(まさにゲームの入場シーンね。髪飾りの薔薇は、攻略中のキャラを示していたはず。つまり、今は白薔薇ルートだという証)
彼女の名はフローリア・ルルネ。真打ちの登場である。



