休み明けすぐに、被せモノをする歯の型取りでデンタルクリニックに足を向けた。

休み中、痛みや出血はなかったかと吉見先生に丁寧に問診され、当たり前の気遣いなんだろうけど、心配してくれる誰かがいるのは心地いい気がした。お医者さんはそれが仕事。自分に苦笑いしながら。






家族でやっている小さい会社だから、お客さんがない限り夕方6時には閉店。
その日は親戚のお通夜だとかで、社長と郁子さん達は3時に帰っていった。人数が少ない分、一人で切り盛りすることはままあることだ。任されているっていう自負もある。もう3年近くお世話になってるわけだし。

5時50分になって外のノボリを片付け、入り口のシャッターを下ろす。路面側の、はめ殺し窓のブラインドは遮光モードに。

せっかく若い女の子が来てくれたからと、わざわざネット注文してくれたジャケット、ベスト、スカートの制服にしわ取りスプレーをしてハンガーにかけ。着替え終わったところで、見計らったみたいにスマホが軽快な旋律を奏で出した。

誰?

画面には『吉見クリニック』の表示。慌てて応答する。次の予約の件かな。

「はい、もしもし。新宮です」

『新宮さんの携帯でしょうか。吉見デンタルクリニックの吉見ですが、こんばんは。今、お電話大丈夫ですか?』

「あっ、はい、大丈夫です・・・!」

受付のお姉さんだろうと思い込んで出たら先生で。ちょっと驚いて、声が上ずったかもしれない。