いつか…、俺がまた母に世界を見せてやりたい。尊敬する母への純粋な偽らざる気持ちだった。

俺がジュリアードへの切符を手にした時、母は涙を流して喜んでくれた。
これで親孝行出来る、と思った。

もちろん、美衣子も喜んでくれた。
何としても、結果を出して早く帰ってきたい。
長く待たせてしまうかもしれない。
でも、俺達が共に過ごす人生のほんの一瞬のことだ、そう思うようにしていた。

美衣子と過ごす最後の日、俺は情け無いことに余裕をなくしていた。
しばらく会えないことへの不安に押し潰されそうになっていた。
不安を感じたくなくて、ホテルに入った瞬間、美衣子に襲いかかった。何度も奪うように抱いた。本当にこのまま奪って、連れて行けたらいいのに、そう思った。

時差があっても、毎日連絡するから。
必ず美衣子の元に戻るから。

美衣子がシャワーから出てきたら、そう告げようと思っていた。

しかし、思いもしなかった展開。突然、別れを切り出された。
何故だ? ほんの10分前まで、俺は美衣子の中にいた。別れるつもりで、そんなこと出来るのか? 
しかも、気になる人? 
あり得ないだろう。そんな奴がいて、俺に抱かれたのか?

しかし、まだ裸でベッドにいた俺をその場に残して去って行ってしまった。

その後、何度電話をしても繋がらない。本気でNY行きを止めようかと思ったが、自分のことのように喜んでいる母を見ていると、そうも出来ない。

結局、俺はそのままNYへ立った。もちろん、着いてからも、美衣子に連絡し続けた。

おそらく、ブロックされたんだろう。繋がることはなかった。