「あの時、2人は高校1年生で、もうすでに2人だけの世界を持っていた。そう遠くない未来に一緒になるだろうって思ってた。優が留学する話を昇平から聞いてたけど、まさか別れるなんて思いもしなかったよ。美衣子は遠距離だからって、優を捨てることはないと思ってたから。」

「いや、捨てたわけでは…」

「…何か、訳があったんだろう?」

「……」

「俺は聞かないけどさ。でも、優が美衣子を諦めることはないと思うよ?」

「……もう、3年だよ?
別れてから、3年経つの。その間、一切連絡してない。連絡先、全部消したの。
……さすがに、優が1人だとは思えない。きっとあっちでいい人と出逢ってるよ。」

「そうかな? そんな簡単に諦めそうにないと思うんだけど。
アイツ、美衣子に近づく男は牽制しまくってたから。俺なんて、昇平と一緒にいる時じゃなかったら、恐ろしくて美衣子に声かけられなかったんだぞ。そんな奴が、簡単に諦めるとは思えないな。」

「……」

「美衣子、嫌になって別れたわけじゃないんだろう? 今の話聞いてたら、まだ気持ちあるじゃないか。今はちょっと、簡単に会えるような状況じゃなくなったけど、この騒ぎが収まったら、会いに行ってみたら?」

そう言って、公親くんはにっこり目を細めて、マスク越しにでもわかる優しいお兄ちゃんの顔で微笑んだ。

「……ありがとう。考えとく…。」

「フッ…考えとくか。まあ、一歩でも前進してくれたならいいや。
遅くなっちゃったな。そろそろ帰ろうか。」

「あ、うん。ごめんね、幼稚園のことで残業させちゃって。その上、恋愛相談まで聞いてくれて…」

「それはお互い様。
それに残業ってほどじゃないよ。最近、日が暮れるの遅くなったし。まだ少し明るい。」