電車に乗った瞬間に、即座にスマホにパスワードを打ち込む。

車内はこの時間帯、密度がそれほど高くもないがやはり低くはない。

周りを見渡して一番人との接触が少ないと思われる端に腰掛けた。


長い間揺れに体を預けなければならない登下校の四十分間は、高校に入ったばかりの頃は苦痛で仕方がなかった。

だが、今となっては“彼女”とゆっくり話すことができる絶好の時間だ。

『雨音(あまね)、学校終わったー?』

字面を見るだけで思わず頬が緩んでしまう。

絵文字があるわけでもないのに、彼女特有の優しさが滲み出ている気がするのは、流石に気のせいだろうか。

『今終わったところ。急遽、委員会の活動で集められちゃって…』

私が遅れて返信したにも関わらず、すぐに新しい文面が表れる。

『そうなの?大変だったねー、お疲れ様!
それにしてもさすが県内トップの高校…気合が違うねー』

彼女の誰もが聞き惚れる甘い声が頭の中で再生される。

だけれど、私は少しだけ返信に困った。

県内トップ、という言葉は誇れるものだろうが、それ以上に重みでもある。

街を歩いていても、電車に乗っていても、制服を着ているだけで視線を感じることが多々。

他の生徒からしたら嬉しいことかもしれないけれど…私は制服を脱げばどこにでもいる平凡な高校生。

そう思うと自分の存在価値がわからなくなる。