「涼嶋って秘書課の愛島さんと話したことある?」

「何回か仕事の話なら。なんだ、ついに恋の予感か?」

「うるせえな、違うよ」

 営業部の唯一の同期である涼嶋はどういうわけか妙に交友関係が広い。

 先日の彼女が秘書課だというのは分かったが、まじめな話秘書課と交流のある部署は知らない。

 あそこはなんとなく別空間だ。ああいう見た目じゃ涼嶋とは直接の交流はないかもしれないが自分みたいにタイプが違うけどつながってるやつが一人くらいはいるかもしれない。

「なんだよ、色人から女の子の話とかめずらしーじゃん」

「別に、名刺入れ拾ったから返そうと思って」

「やっぱ恋の」

「しつこいな、違うって」

 こいつに言うんじゃなかった、と色人はさっそく後悔した。

 からかわれるのなんて目に見えていたじゃないかとひとりごちる。


 総務課に届ければいいだけだ。そうしたほうが彼女だって見つけやすいだろう。

 そういうのだってきちんと考えたしわかっている。

 名前が入ってるってことは大切にしてるものだろうし、昨日それとなく女性社員に聞いたら去年の冬に出たプレゼント用想定のモデルだとも言っていた。

 誰か、それこそ恋人とかに貰ったものだったら大切にしている違いない。

 第三者で男である自分が持っているだけで不愉快な可能性も捨てきれなかったけれど、どうしても色人はもう一度満に会いたかった。

 自分の直感だけでは、会える理由として足りなさすぎるのはわかっていても。

「俺は直接話さないけど、俺の同期の友達なんだよな、愛島さん」

「なんだそれ」

「大学の同期の幼馴染なんだと。知らない? モデルの工藤愛理」

 世間はこうも狭いのかと妙に感心すらしてしまった。

 とはいえ役には立たなかったけれど。