『彼女の旦那さんは確かにうちで働いてくれてました。この現場ではないですが、違う現場で…』


真奈と2人で、現場監督さんに話しを聞いた。


『何かあったんですか?』


『…1年前になります…奥さんは、お弁当を毎日毎日近くだった現場まで届けていたんです。作り立てを食べてもらいたいからって。彼もそれをすごく楽しみにしていて…』


つらそうな顔を見ていると、この続きを聞きたくないような気もした。


『その日も奥さんが来て…作業中だった彼に手を振ったんです。そして、彼も手を振り返して…でも、その瞬間、バランスを崩して倒れてしまい…たまたまそこにあった鉄骨に…』


『そんな…』


『意識を失ったまま、彼は起き上がることはありませんでした。もう不運としか言いようがなかったんです。誰も悪くないんです。でも、目の前でそれを見てしまった奥さんは…もう、正気を失って泣き叫びました。自分のせいだと言って。お葬式が終わり、しばらくしてからです。彼女は毎日現場に来て…お弁当を置いていくようになりました。誰も止めることは出来なくて…』