『ねえ、明日、ちょっと話があるから付き合って』


妻からの誘いなんて何年ぶりだ…?


『ああ』


『行ってきます』


妻が、元気ない声でつぶやいた。


ドアを開けて出て行く背中が、とても小さく見えた。


『…』


あいつと出会ったのは、夜の街。


お酒の勢いに任せた一夜のつもりだった。


なのにお互いなぜか離れられず、のらりくらりと関係を続けて…


今に至る。


そう、俺たちは本当の夫婦ではない。


妻と呼ぶのは、会社での体裁を考えてのことだった。


気づいたら、いつの間にかこんなことになって…


明日…


いったいどこに行くって言うんだ。


昼過ぎに目覚めると、もう妻は支度を済ませて待っていた。


『なんだよ、その荷物』


小さめの旅行カバンに思わず目がいった。


『運転するから』


そう言うと、着替えを急かされ、車に押し込まれた。


俺、まさかこいつに殺される?


このバックの中には…


なんてことを考えてるうちに、1時間半くらいか、車はある旅館に到着した。