放課後。ほとんどの同級生は教室を出ている。窓の外は今日も雨。昨日やっと止んだと思ったら、今日の昼休みからまた降り出した。梅雨入りの知らせが入る前一週間くらいから今日までで、レインコートを着ずに登下校したのはどれくらいだろう。五回もないかもしれない。
雑踏の奥に、こちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえた。忘れ物でもしたんだろう。
わたしは深く息をついて、机を叩いて立ち上がった。「もう雨はいいっつうの」
「ひゃっ」と短い悲鳴が上がった。「ごめん、秋穂さん……」という声に振り返ってみると、肩につかない程度の髪の毛で、前髪を斜めに分けた女の子がいた。今日、三時間目の授業から鉛筆を貸していた人。
国語と英語では鉛筆を使う決まりになっているけれど、鉛筆でもシャーペンでも、好きなものを使えばいいじゃないかと、入学してからずっと思っている。鉛筆の方が綺麗な字が書ける、というのが先生たちの考えらしいけれど、わたしの字は鉛筆であろうとシャーペンであろうと平等に綺麗じゃない。
「ああ、北橋さん」
「ごめんね、返すの忘れちゃってて……」と、淡いピンクのボディの鉛筆が差し出される。わたしはそれを受け取った。
「ううん、全然」
「助かったよ。ペンケース開けたら芯折れてるんだもん、がっかりしちゃった」
「あれ本当に絶望するよね。国語も英語もシャーペンでいいと思うんだけどね」
「うーん。でも、わたしは鉛筆が好き」
にこっと温かく笑って、北橋さんは教室の時計を見た。「ああ、部活行かなきゃ」と言って、「またね」と手を振り、小走りで教室を出て行った。
雑踏の奥に、こちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえた。忘れ物でもしたんだろう。
わたしは深く息をついて、机を叩いて立ち上がった。「もう雨はいいっつうの」
「ひゃっ」と短い悲鳴が上がった。「ごめん、秋穂さん……」という声に振り返ってみると、肩につかない程度の髪の毛で、前髪を斜めに分けた女の子がいた。今日、三時間目の授業から鉛筆を貸していた人。
国語と英語では鉛筆を使う決まりになっているけれど、鉛筆でもシャーペンでも、好きなものを使えばいいじゃないかと、入学してからずっと思っている。鉛筆の方が綺麗な字が書ける、というのが先生たちの考えらしいけれど、わたしの字は鉛筆であろうとシャーペンであろうと平等に綺麗じゃない。
「ああ、北橋さん」
「ごめんね、返すの忘れちゃってて……」と、淡いピンクのボディの鉛筆が差し出される。わたしはそれを受け取った。
「ううん、全然」
「助かったよ。ペンケース開けたら芯折れてるんだもん、がっかりしちゃった」
「あれ本当に絶望するよね。国語も英語もシャーペンでいいと思うんだけどね」
「うーん。でも、わたしは鉛筆が好き」
にこっと温かく笑って、北橋さんは教室の時計を見た。「ああ、部活行かなきゃ」と言って、「またね」と手を振り、小走りで教室を出て行った。



