翌年の春は、よく晴れた日が多かった。梅雨に入っても、こんな日が続いてくれることを願っている、春休み。

 白のティーシャツに、長袖のデニムの上着、黒のズボン。ポニーテールには薄い生地の白いシュシュ。腰の辺りには、斜めにかけた、淡いピンク色のハート形のショルダーバッグ。

 自分の部屋を出て、階段を下り、玄関を出た。春の暖かく優しい風が、心地よく髪の毛を揺らす。


 目的地までもう少し、というところで、その目的地からお迎えがきた。

 「えっ、透くん! どうしたの?」

 透くんはへらりと笑って、すぐに頬を染めてうつむいた。

 「最初は待ってたんだけど、やっぱりなんか、こう……心配っていうか……」

 「わたしの気が変わって、こないんじゃないかって?」

 「まさか! 危ないなって……」

 「とんだ変わり者さんがわたしをさらうんじゃないかって?」

 「おれと同じような人に危険な目に遭わされないかって」

 「間違ってないじゃん」とわたしが笑うと、透くんも笑った。

 透くんは、とっても変わっている。わたしなんかに告白してきた男子なんて、透くんだけだもの。小鳥遊さんの方がうんとかわいいのに、小学校にだって、わたしよりうんとかわいい女の子はいたのに、幼稚園で出会ったときからずっと、見ていてくれたんだってさ。それなら最初からそう言ってくれればいいのに、変に強がっちゃってさ。用心棒として、なんてね。

 だけど、今は。

 「ほら、早く行くよ? 透くんみたいに女の子を見る目がある人に寄ってこられちゃあ困るからね。ちゃんと手、繋いでてよね」

 わたしは、透くんの手を取った。二つの手は自然と、なにかを祈るような形になった。

 これからもずっと、一緒にいられますように……なんてね。