「ここでうだうだしていても仕方ないじゃない、お店で悩んできなさいよ」と言われて、ショッピングモールにきた。右、左、前、後ろ。どこを見ても人の塊。休日のショッピングモールというのはこんなに混雑するものなのか。

 後ろから人にぶつかられて謝り、少し移動した先でまたぶつかって謝り――。着いてからそんなことしかしていない。お店で悩むもなにも、悩みの種が増えただけ。どこに行けば人の邪魔にならないだろう……。

 一瞬でもいいから自分の空間が欲しくて、エスカレータに乗った。何人か、すぐ横を自分の足で上っていく人がいたけれど、通路であちこちへ逃げ惑うよりはうんと気が楽だった。

 エスカレータを降りて、通路の手すりにつかまった。人の波の中って、こんなに窮屈だったっけ。

 「あれ、森山?」と声がして顔を上げると、間瀬くんがいた。こちらへ向かって歩いている。その姿が、どんよりした人の波に浮かぶ太陽のように、明るく見える。

 「間瀬くん……!」

 「だからお前、その顔やめろよ」と、いつものように顔をしかめる。

 「どうしたんだ、一人か?」

 「間瀬くんだって」

 「おれはサイクリングがてら寄ったんだよ」

 「そんなおしゃれな趣味持ってるの?」

 「おうよ、しかも通学用の自転車だぜ。超おしゃれだろ」

 半端じゃないね、と笑うと、間瀬くんも小さく笑った。

 「で、なにしてんだ?」

 「紫乃ちゃんがね、もうちょっとで誕生日なんだ。なにかあげようと思うんだけど、なにも浮かばなくて……」

 「へええ。お前、本当に秋穂のこと好きなんだな。用心棒呼ばわりしてるくせに」

 「え?」

 「……え?」

 「紫乃ちゃんは用心棒じゃないよ」

 「え、そうなのか?」

 「おれが、紫乃ちゃんの用心棒をやらせてもらってるんだよ。用心棒として、そばに置いてもらってるの」

 「え、そうなのか? おれはてっきり、秋穂が用心棒なのかと……」

 そういえば、あの女の子もそう思ってたな。そこまで思って、はっとした。紫乃ちゃん、誤解が解けた記念とか言ってた‼ 嘘でしょう、まさか、紫乃ちゃんもそう思ってたの? でもなんで急にその誤解が解けたんだろう。え、まさか、あの場にいた? 嘘でしょう、嘘でしょう? 聞いた? 全部聞いた?

 「ああ、ああ……」

 顔全体が燃えるように熱くなって、おれは頭を抱えてしゃがんだ。

 「わっ、ちょい、大丈夫か? 人混みに酔ったか?」

 どうしよう、どうしようとおれは繰り返す。本当にどうしよう。

 「え、大丈夫か、気持ち悪い?」

 「どうしよう、紫乃ちゃん……」

 あのとき泣いていたのは、そのせい? おれが紛らわしいことを言ったから、ずっと悩んでたの? ああ、全部おれが――。

 「なに、秋穂? プレゼントのことか? それならゆっくり考えればいいだろ。まだ数日はあるんだろ?」わかんねえけど、と間瀬くんは呟く。

 「おれが、紫乃ちゃんを……」

 「おいどうした、そんなドラマの犯人みたいなこと言って」

 「泣かせた」

 「泣かせた? ああ、あのときの。え、今も元気ないのか?」

 ううん、と首を振ると、じゃあいいじゃねえか、もう時効だ時効、と間瀬くんは軽い調子で言う。