目の前にカレンダー。ソファの背もたれ越しにそれを眺めるおれ。
人生に悩み事は絶えない、なんてセリフを、かっこいい俳優さんが映画で言っていたけれど、どうやら本当みたい。
もうすぐ紫乃ちゃんの誕生日。なにかプレゼントしたいけれど、なにがいいかわからない。どうしよう……。紫乃ちゃんの存在に満足しすぎて、誕生日のことを忘れていた。
「今日、なんの日か知ってる?」なんて紫乃ちゃんに言われたとき、誕生日と答えながらなにも持っていないなんてことが許されるだろうか。たとえ世界中の人が許しても、おれがおれを許せない。「ひどい、わたしの誕生日って知ってるのに……」なんて、あの大きな目に涙を浮かべられたときにはもう、おれはこの身をどうしてしまうだろう。
「あああ……」
両手で顔を覆った。泣きそう。
紫乃ちゃんって、なにが好きだったっけ。中学生って、普段なにしてるっけ。
「おれ中学生なのに全然わかんない……」
「どうしたの?」と母の声が言う。
「誕生日……」
「透の誕生日はまだ先でしょう?」
「うゔ……しのぢゃん……」
「一回落ち着いたら?」
「だっで、もうすぐだのに……」
「まだ先だって言ってるでしょう?」
「違う、紫乃ちゃんの誕生日……」
「え?」
「誕生日、なにかあげだいのに……なにがいいかわがんない……」
「ああ、女の子のお誕生日ね。なら、誕生石のネックレスとか」
おれはばっと顔を上げた。
「十年早くない? 近頃の女の子はそんなにおしゃれなの? お小遣い足りないよ」
「じゃあ、バッグとか」
「だから高いんだよ。それ完全に母さんが欲しいものだよね?」
母はふふっと笑って、「ばれた?」と言う。
「まあ、じっくり悩んであげなさい」と、余裕の滲んだ声。嫌でも悩むよ。紫乃ちゃんのためだもん、渡す直前までだって悩むよ。
「だけどさあ……!」
女の子ってなにが欲しいものなの? シャーペン?……いやそれは好みが分かれるし、消しゴム?……いや、それは人に贈るようなものでもないし……。
人生に悩み事は絶えない、なんてセリフを、かっこいい俳優さんが映画で言っていたけれど、どうやら本当みたい。
もうすぐ紫乃ちゃんの誕生日。なにかプレゼントしたいけれど、なにがいいかわからない。どうしよう……。紫乃ちゃんの存在に満足しすぎて、誕生日のことを忘れていた。
「今日、なんの日か知ってる?」なんて紫乃ちゃんに言われたとき、誕生日と答えながらなにも持っていないなんてことが許されるだろうか。たとえ世界中の人が許しても、おれがおれを許せない。「ひどい、わたしの誕生日って知ってるのに……」なんて、あの大きな目に涙を浮かべられたときにはもう、おれはこの身をどうしてしまうだろう。
「あああ……」
両手で顔を覆った。泣きそう。
紫乃ちゃんって、なにが好きだったっけ。中学生って、普段なにしてるっけ。
「おれ中学生なのに全然わかんない……」
「どうしたの?」と母の声が言う。
「誕生日……」
「透の誕生日はまだ先でしょう?」
「うゔ……しのぢゃん……」
「一回落ち着いたら?」
「だっで、もうすぐだのに……」
「まだ先だって言ってるでしょう?」
「違う、紫乃ちゃんの誕生日……」
「え?」
「誕生日、なにかあげだいのに……なにがいいかわがんない……」
「ああ、女の子のお誕生日ね。なら、誕生石のネックレスとか」
おれはばっと顔を上げた。
「十年早くない? 近頃の女の子はそんなにおしゃれなの? お小遣い足りないよ」
「じゃあ、バッグとか」
「だから高いんだよ。それ完全に母さんが欲しいものだよね?」
母はふふっと笑って、「ばれた?」と言う。
「まあ、じっくり悩んであげなさい」と、余裕の滲んだ声。嫌でも悩むよ。紫乃ちゃんのためだもん、渡す直前までだって悩むよ。
「だけどさあ……!」
女の子ってなにが欲しいものなの? シャーペン?……いやそれは好みが分かれるし、消しゴム?……いや、それは人に贈るようなものでもないし……。