しばらく歩いて、ベンチの様子をうかがった。つつくように指先で触ってみると、まだ湿っているのがわかった。昨日までずっと雨が降っていたのだから不思議はない。諦めて、大きな木の根元にしゃがんだ。透くんも隣で同じようにする。
「やっぱり雨って苦手だな」
「今日は降ってないよ?」
「それでもだよ。なんかこの、湿った感じ。空気も、土も、アスファルトも。なんか、悲しくならない? 暖かいことは暖かいのに、この湿った感じで悲しくなる。寒い日の雨なんてのはもう……」
冗談じゃないよね、と笑うと、「紫乃ちゃん」と名前を呼ばれた。このなんとも言えない寂しさをすべて包み込んでしまうような、優しい声だった。
振り返って、なに、と返すよりも先に、唇が温かくなった。温かいマシュマロでも当たっているような、そんな感覚。
それがなにかわかるころには、すぐ近くに、透くんの顔があった。
「なっ、ちょっと、なにしてんの⁉」
真っ黒な前髪を揺らして、「ごめんね」と、その顔は美しく、いたずらに微笑む。
「おれ、紫乃ちゃんのこと、本当に大好き」
ふわりと頭の後ろを触られたかと思えば、おでこに優しく、マシュマロが触れた。
「とおる、くん……?」
「あ、やっと名前で呼んでくれた」と、頭の上で声が笑う。
ああ、なにこれ。これじゃあまるで、恋人みたいじゃん……幼なじみくん。
「やっぱり雨って苦手だな」
「今日は降ってないよ?」
「それでもだよ。なんかこの、湿った感じ。空気も、土も、アスファルトも。なんか、悲しくならない? 暖かいことは暖かいのに、この湿った感じで悲しくなる。寒い日の雨なんてのはもう……」
冗談じゃないよね、と笑うと、「紫乃ちゃん」と名前を呼ばれた。このなんとも言えない寂しさをすべて包み込んでしまうような、優しい声だった。
振り返って、なに、と返すよりも先に、唇が温かくなった。温かいマシュマロでも当たっているような、そんな感覚。
それがなにかわかるころには、すぐ近くに、透くんの顔があった。
「なっ、ちょっと、なにしてんの⁉」
真っ黒な前髪を揺らして、「ごめんね」と、その顔は美しく、いたずらに微笑む。
「おれ、紫乃ちゃんのこと、本当に大好き」
ふわりと頭の後ろを触られたかと思えば、おでこに優しく、マシュマロが触れた。
「とおる、くん……?」
「あ、やっと名前で呼んでくれた」と、頭の上で声が笑う。
ああ、なにこれ。これじゃあまるで、恋人みたいじゃん……幼なじみくん。



