席に着くと、間瀬くんは「そんで?」と話しを再開した。

 「どうしたんだ? 秋穂は」

 「いや、わからないんだ……」

 「へえ?」

 「だけど、泣かせちゃった」

 「はあ⁉」

 「いや、そうじゃっ……いや、そうなんだ、うん」

 「なにやったんだよ⁉」

 「逆だよ」

 「ん?」

 「なにかしたから、じゃなくて、なにもしなかったから、なんだよ」

 「……ん?」

 「おれは紫乃ちゃんのこと、なにも知らなかったんだ。だから、なににも気づけないで……」

 「いやっ、でもさ……いや、ああ、そうか……」

 うーん、と、間瀬くんは唸る。

 「なにがあったんだろうなあ? なんもわかんねえの?」

 「わからない」

 「なんか様子が違ったとか」

 「なにも……」

 いや、実際にはなにかが違ったんだと思う。だけど、おれがそれに気づけなかったんだ。

 「まあ、とりあえず落ち着けや。な? お前のせいじゃないかもしれん。シンプルに友達と喧嘩したとかさ。そんでお前の顔見たらなんか安心して泣けてきたとかさ」

 「そうなのかな……」

 「安心したまえよ、おれには女子の気持ちは割と理解できる男だというギフがある」

 「中部地方?」

 「あ? いや、それは岐阜だ。おれはジフがあるって言ったんだ。全然違うだろ」

 「ジフ……? 慈しみの父?」

 「ばか。自ら負うの自負だ。慈父を知ってたら自負はわかれよ」

 「はあ……。紫乃ちゃん、どうしたんだろう……」

 「話を逸らすな、話を。まあいいや。普通に、なにがあったのって訊いてみりゃあよくね?」

 「でも……」

 昨日は、そんな、なにもわかっていないような言葉で泣かせてしまったんだ。もう、そんなことはしたくない。