階段を上っていると、ぐわりと肩が重くなった。

 「なあーにぼさっとしてんだよ?」と、間瀬くんの声が続く。

 「間瀬くん……」

 「お前は一回、人を下の名前で呼ぶことを覚えた方がいい。アイオをそう呼ぶように」

 「紫乃ちゃん⁉」と叫んだのは、体が勝手に反応したからだった。

 間瀬くんはへらへら笑っていたのを、途端に困惑した顔へ変えた。

 「え、なんだ、どうした」

 「いや、別に……。ごめん」

 「別にいいんだけどさ。え、なに、アイオとなんかあったわけ?」

 「紫乃ちゃんとあったわけじゃない。紫乃ちゃんに、なにか……。あったんだ、きっと」

 「へえ? じゃあお前の予想は当たってたわけだ? よかったじゃねえか、そのために早くあいつのもとに行けた」

 言われて、昨日の放課後のことを思い出した。

 「そうだ、昨日、いつ帰ったの?」

 「ばーか。なに言ってんだ、言ったろ? おれはお前が思うほどいいやつじゃないって。いい男ではあるけどな。超絶ハンサムだろ? まあ、昨日はあれだ、結局、アイオの下駄箱確認して、靴がなかったんですぐ帰ったよ。てか、秋の穂って書いてアイオなんだな。二組って知らなかったら確認もなにもなかったわ、読めなくて」

 「すぐ帰ったんだ? よかった……。ていうか、おれも下駄箱確認すればよかったね」

 「まあ、別にいいだろ。結果として、秋穂は先に帰ってたんだから」