じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 目覚まし時計の音に目を開いてすぐ、昨日の紫乃ちゃんの声が蘇った。覚えてる――。嬉しすぎて、記憶にさえ残らないかもしれないと思っていたけれど、覚えていた。もしかしたら、紫乃ちゃんが泣いていたからかもしれない。

 ふと両手に、昨日の紫乃ちゃんの悲しい震えが蘇ってきて、それに反応するように視界が滲んで、かと思えば、手に温かい水が落ちた。

 紫乃ちゃんはなんで泣いていたんだろう。おれは出会ってから今日までの十年弱もの間、紫乃ちゃんのなにを見ていたんだろう。紫乃ちゃんのなにを知っていたんだろう。なにも見えていなかった、なにも知らなかったとしか、答えが出ない。もう少しだけでも、紫乃ちゃんのことを知っていたなら、もう少しだけでも、紫乃ちゃんのことを見ていられたなら、あんなふうに悲しませることもなかったかもしれない。

 鼻をすすって、手に落ちた水をパジャマで拭いた。

 こんなんじゃ、――失格だ。

 おれはなんのために紫乃ちゃんと一緒にいる? 悲しませるためなんかじゃない。あんなふうに泣かせるためなんかじゃない。おれ自身の幸せのため――というのは、否定はできないけれど、それだけではない。間瀬くんが言ってくれたように、おれのそばで、紫乃ちゃんに幸せになってもらうため。

 それがどうした、なぜ紫乃ちゃんがあんなふうに泣いている? そんなこと、絶対にあってはいけないのに。