昇降口へ向かう途中、二人の男女が階段を下りてきた。「あっははは」と楽し気に笑う女の子の隣で、「お前ひどい」と、男の子が頼りない声を発している。

 「いけるって言った。でもだめだった」

 「ふっはははは、いや、だって……あはははは!」

 「お前許さない、絶対許さない……」

 男女はおれの前に入って、昇降口の方へ歩いていく。男子の方は染めたような茶髪。

 「いや、あたしは結構まじでアドバイスしたんだよ? いや、まじで」

 言いながら、女の子の方は笑っている。

 「もう嫌い、お前。ひどい」

 「ふふっ。いや、ひどくないよ? あたしはアジーに合った方法を提案したんだもん」

 「全部お前の言うようにやったのに」

 「ふふっ。それでだめだったんならしょうがないよ、ね? はははっ」

 「お前泣かす」

 「泣いてる人に言われても説得力ないなあ」

 「泣いてねえし……」

 ばかじゃねえの、と言う男の子の声が、微かに震えているようにも聞こえる。部活でこっぴどく叱られたのだろうか。

 ずずっ、と鼻をすするような音がして、「泣いてんじゃん」と茶化す女の子に、「うっせえばか、黙れ」と、男の子の頼りない声が返す。「ふふふ」と女の子の声が笑って、またずずっと鼻をすするような音がした。