「森山ー」と言われてはっとすると、また窓の外を見ていたことに気が付いた。

 視線を戻して「ごめん」と返すと、「どうした」と間瀬くんは言う。

 「なんか……会いたいなって」

 「アイオ?……っていや、それはわかったよ。聞いたんだわ、さっき。どうした、会いてえだけじゃねえだろ」

 「なんか、いつもと違うんだ。会いたいのはいつだってそうなんだけど、なんか、いつもと違う……なんか、わかんないんだけどさ」

 「ふうん?」

 「なんか、紫乃ちゃんが……。紫乃ちゃん、元気かな……」

 「元気なんじゃねえの? 根拠はねえけど」

 「もし元気なかったらどうしよう」

 「元気にしてやりゃあいいんじゃねえの?」

 「また、おれが楽しむの?」

 「まあ、よっぽど元気がねえようじゃあ、なんもしねえでただそばにいてやるのが吉じゃねえ?」

 「なにも?」

 間瀬くんは、「そ」と短く頷く。

 「純粋に優しい気持ちで一緒にいてやるんだよ。そんで、相手に穏やか~な気を送るんだ。そんでまあ、ちょっと普段通りっぽくなってきたら、いつもみたいに笑ってやりゃあいい。お前の笑顔には、そういう力が宿ってる」

 「そういう力?」

 「だからその……なんだ? あの……見てると、こっちも自然と笑っちまうようなさ。最近、お前すげえ楽しそうじゃん? そんなお前見てっと、おれも嬉しいんだわ。『ああ、あんな卑屈で内気で引っ込み思案なこいつが……』って」

 「そこまで言う? 泣くよ?」

 「いや、おれは嬉しいんだよ。なめくじみたいに湿っぽかったお前が、そんなふうに楽しそうに笑ってて。今のお前を見てると、こっちまで楽しくなってくる」

 「なめくじ……?」

 「よかったな、当たりが出て」

 「当たり?」

 「なめくじだけにな。なめ、クジ……なんつって」

 「え、なに、どういうこと?」

 「ばか、こういうのは説明しちゃだめなんだよ」

 「ふうん。間瀬くんって難しいことばっかり言うよね」

 「いや、これは単におれのセンスが……」

 そうだ、センスがなかったんだ、と、間瀬くんは呟いた。

 紫乃ちゃんに会いたい――。これが、ただのおれのわがままであればいいと、そう思う。

 窓の外は雨。「おいこら森山」と声が飛んできて視線を戻すと、「そんなにおれの方見るのが嫌か、泣くぞ」と、間瀬くんがまじめな顔をして言った。