おれはふと、窓の外を見た。「おいこら、モデルさんよ」と声が飛んできて、視線を戻す。

 「どうした、急にそわそわしよって」

 「いや、なんでもない……」

 「嘘こけ、この野郎」

 「いやあ……」

 へへ、と苦笑すると、へへじゃねえとまじめな声が返ってきた。

 「どうした」

 「いや……。会いたいな、と思って」

 「アイオ?」

 「うん。なんかわかんないけど、急に」

 会いたいのはいつだってそうだけれど、いつものそれとは少し違う、感じたことのない衝動が、体中を駆け巡っている。会いたい、そばに行きたい――そんな衝動。

 「それだけ?」

 「うん……それだけ」

 それだけ――というどころか、おれの日常は紫乃ちゃんだけでできている。幼稚園で出会ったころから、ずっと。

朝になれば紫乃ちゃんに会いたい一心で園児服へ着替え、月曜日を迎えれば、紫乃ちゃんの姿が見られることを願ってランドセルを背負い、春休みが明ければ、紫乃ちゃんと同じクラスであることを願ってクラス表の確認に向かった。

今だって、紫乃ちゃんのことを考えながら登校し、紫乃ちゃんのことを考えながら、紫乃ちゃんを話題の中心に、間瀬くんと話をしている。