自転車置き場は、とても静かだった。体育館の方から、ほんの微かに、人の声、ボールをつく音、シューズがコートを駆ける音、キュッと動きを止める音なんかが聞こえてくる。いいな、部活があって。

 自転車置き場を見渡してみると、思いの外多くの空きがあった。そういえば、バドミントン部だけではなくて、女子バスケ部も休みなんだ。女バスの人たちは、部活がなくて退屈だったりしないのかな……。

 待っていると、部活の時間は長い。待っても待っても時間が経たなくて、雨音だけが続いている。実際にはこの間やんだのだけれど、梅雨入りしてから一度もやんだ日がないような感覚。

 ああ、そういえば――。

 その雨がやんだ“この間”に、わたしは、透くんの用心棒になったんだ。もう何週間も、何か月も経っているような感覚だけれど、実際にはほんの数日しか経っていないんだ。

 また、胸がざわざわと、むずむずと、うずいた。手を当ててみても、なにも感じない、なにも届かない。掻くように爪を立ててみても、不器用にあちこちへ動かしてみても、なにも感じない。うずきは取れない。

 透くんはなんで、用心棒なんて言ったんだろう。いや、そこじゃない。なんで、用心棒なんかを相手に、あんなに、好きとか大好きとか、言うんだろう。まだ恋という恋もしていなくて耐性なんかないのに、そんなこと言われたら、嫌な気持ちはしないに決まっているのに。だけどわたしは、用心棒でしかない。どんなに嬉しくたって、用心棒でしかない。

 今まで、気づかないふりを、知らないふりをしていたけれど、わたしはすっかり、透くんを好きになっていた。用心棒を卒業したいのは本当だ。用心棒でしかないのなら、いっそ離れてしまいたいと思っているんだ。必要なくなってしまうよりも先に、あんたの用心棒なんかやってられないと、ありったけの想いをぶつけて。