いらいら、もやもや、むずむず。

 いくつの夜が明けようと、変わらず泣いているだけの空と違って、近ごろのわたしの心は忙しい。

 こびりついたむずむずを剥がそうと胸に手を当ててみても、なにも感じない。掻いてみたって、当然、制服の上からではなにも感じない。実際に肌に触れたって、むずむずが広がるそこはなにも感じないのだから。

 ぞろぞろと流れていく人の波に乗って、今日も部活ないんだよな、なんて考える。これで、あの体育館で、椎名さんが飛ばしてくる容赦のないシャトルに必死にくらいついていけたなら、少しはこのむずむずもすっきりするんだろうに。

 昇降口を出ると、「おー、秋穂ちゃんじゃん」と気の抜けた声が聞こえた。右へ振り返ると、椎名さんがいた。

 「いやあ、久しぶり」

 「久し……久しいか?」

 「久しぶりだよー。もう何日部活ないの?」

 「まだ昨日と今日だけじゃない?」

 「うそ、まだ二日⁉」

 「そうだよ」ははは、と椎名さんは笑う。「秋穂ちゃん、本当に部活が好きなんだね」

 「そんな気はなかったんだけどねえ……」

 「まあ、それは結構わたしも同じだったりしてね。もし今日、このあと秋穂ちゃんが暇なら、うちででもやらない? 家、近いんだ。しかも練習用に屋根もついてる」

 ある程度の雨なら問題ないぞ、と、椎名さんは得意げに親指を立てる。

 「ああ……」

 もちろん、椎名さんとなんてできたら嬉しい。このむずむずなんて、一瞬にして吹き飛んでしまうだろう。だけど――。

 「ごめんね、ちょっと今日は用事があって」

 わたしはまだ、透くんの用心棒を卒業していない。そう、まだ、用心棒を卒業していない。

 「ええ……そうなんだあ……」

 「ごめんね、また誘って」

 「あいよー」

 じゃあまたあとでね、と手を振る椎名さんへ、わたしは気を付けてねと手を振り返す。