もやもや。

 教室の外は雨。自転車で飛び込んだ水たまりに濡れた靴下。湿っぽい廊下に滑った上履き。

 もやもや。

 今のわたしの日常から部活を取ったらなにが残ろう。あいつしかないじゃないか。

 「ああ、最悪……」

 ひんやりしたまま乾かない靴下。廊下で滑ってからなんだか調子の悪い足首。部活動のない放課後。理想とは違う形に変化を続ける、やつとの関係。

 わたしは結局、用心棒を卒業するために、透くんと対等な関係を築くことにした。反発すればおもしろがられるし、下に出ればそのままなめられると思ったから。あくまで友達のように、同い年らしく、平等に、同じように、対等に。

 しかしそうしたらどうだ、状況はどう変わった? なんか、恋人みたいになっちゃったじゃない。

 「そうじゃないんだよ、そうじゃないの……」

 運命さんよ、そこはわかるじゃない。あくまで対等な関係を築きたいのよ、わたしは。あんな、君が笑えば僕も笑う、僕が笑えば君も笑う――みたいな素敵な関係を築きたかったんじゃなくて、主従関係というのか、上下関係というのか、使う・使われるの関係を脱して、自然消滅――みたいなことがしたかったのよ、運命さん、わたしはね。そりゃあ、透くんの笑顔につられて笑ってしまうわたしも悪いのかもしれない。だけど運命さん、人間ってそういうものなんですよ。一緒にいる人が笑っていると、自然と笑ってしまうものなんですよ。条件反射というのかな。そういう生き物なんです。

 だというのに――。

 「なんでああなっちゃうかなあ……」

 人間をもてあそぶにしても、運命さんはもう少し、人間のサガというものを理解した方がいい。

 もやもや。

 このごろ、なんだか頻繁にもやもやするけれど、すべてはあなたのせいですよ、運命さん。あなたがちゃんと事を運んでくれないから、わたしはこうして悩んでいる。いや、わたしに限ったことでもないのだろうけれど。

 現状を変えたくて行動を起こすのに、思い描いていたのとは違う形に変わってしまう。星形にしたかったのに丸くなってしまったり、丸くしたかったのに一部へこんでハート形になってしまったり。わたしの場合は後者かな。へこみもでっぱりもなくて、まん丸な関係を築きたかったのに、変にへこんでしまって仲のいい恋人みたいな関係になってしまった。

 そりゃあ、高い場所から見下ろしているだけの運命さんは楽しいだろう。けれど、等身大のわたしたちは本気で考えて、本気で行動を起こしている。それを、大きく強い力を持った運命さんの遊び心に翻弄されてはたまったものじゃない。

 わたしは一つ、深く息をついた。

 まあ、諦めませんけどね――。

 運命さんが、こいつはおもしろくないって思えるまで、わたしは動く。格好悪い、無様だ、いい加減に諦めろよ、なんて笑う存在があっても、わたしは必ず、透くんの用心棒を卒業する。