「おれ、間瀬くんには感謝してるんだ」

 「へえ? ほんなら、いっちょ名前で呼んでみようか」

 「間瀬くんがいなかったら、今、こんなことでは悩んでないだろうし。紫乃ちゃん紫乃ちゃんって考えてたと思う」

 「おお、頑なに名前では呼ばないんだな。てか、今もシノちゃんシノちゃんじゃね?」

 「話してみたいけど話しかけられないとか、そういうの繰り返してたと思う」

 「ほう。まあ、ちょっとでもいい影響与えられたならよかったぜ」

 「それでさ?」と見上げると、間瀬くんは「ええ、なに」と顔をしかめる。

 「おれ、お前のそういう顔苦手なんだよ。なんか、すげえ悲しそうな小動物になにもしてやれねえみたいな罪悪感にさいなまれるんだわ」

 「おれはどうしたらいい?」

 「ええ……? てか、お前はもうちょっと自分で考えてみようとか思わねえのか? その方が、恋愛って楽しくね?」

 「考えてわかるなら考えてる」

 「わお、いっそ清々しいほどのクズな発言」

 「失礼しちゃうな」

 「これは失礼じゃねえ――」

 「無礼?」と聞いてみると、「違う、事実だ」と返ってきた。

 わかってはいる。自覚はある。もう少し、自分で考えた方がいいということくらい。客観的に見たら――いや、そう見なくても――どうしようもない男だということくらい。

けれど、おれが考えると、どうしても、一緒にいない方がいいのではないかという答えに行き着いてしまう。それを間瀬くんは、最善の方法を提案してくれる。一緒にいながら紫乃ちゃんを幸せにできる形を、提案してくれる。だからいつも、気が付けば彼に甘えてしまっている。

 まるでおれたちは――。

 「なに笑ってんだ? お前、蔑まれるのが好きだったのか?」

 「まさか。いやね、おれたちって、赤鼻の青いロボットと丸眼鏡の少年みたいだなって思って」

 「ああ、それは否定しないな。確かにおれは丸眼鏡の少年にそっくりだ」

 「あれっ、なんか違うな」

 「え、見た目の話じゃなくて?」

 「間瀬くん、そもそも眼鏡かけてないし」

 「かといってお前だって眼鏡かけてねえし、カンガルーみたいにポケットも抱えてねえ。おれだってそうだ」

 「関係性の話だよ」

 「ああ、なるほど。確かにお前は、なにかにつけておれ様を頼る節がある」

 「間違ってないだけにすごい嫌な言い方だ」

 おれが笑うと、間瀬くんも笑った。昨日はこんなふうに、目の前で、おれに向けて、紫乃ちゃんが笑ってくれた。

 昨日、小学生のころに読んでいた児童小説について調べた。ヴァレリーはやはり主人公で、この世界に笑顔と幸せを作り出すためにやってきたらしい。常ににこやかな表情で、魔法を使っては度々失敗する、おおらかで向上心が強いキャラクターと説明されていた。

 彼の魔法は、なんでも作り出せる魔法だった。例えば、ぱっと一輪の花を出すこともできるし、ぼんと、ごちそうを出すこともできる。けれど、一輪の花を出せば勢い余って花びらが散ってしまったり、ごちそうを出すにしても、机と一緒に出せばいいものを、自分の手に皿を出すものだから、危うく落としそうになったりしている。

 そんな、使いこなせずとも便利な魔法を持っている彼だけれど、彼の本当の魔法は、常に浮かべている優しい笑顔だと思う。失敗したときにも絶やさない笑みで、彼はいろいろな人を笑顔に、幸せな気持ちにしてきたのだと思う。