じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 一般文芸の売り場を眺めながらふらふらとライトノベルや漫画の売り場に移動して、最終的に児童書の売り場に流れ着いた。

 紫乃ちゃんは、「わあ、懐かしい!」と声を上げる。

 「知ってる?」と差し出された本の表紙には見覚えがあった。小学校の低学年のころに何作か読んだことのあるシリーズものの一冊だった。ごく普通な女の子が、魔法を使える男の子に出会う話だった。出会って……どうしてたっけ。

 「小学生のころにいくつか読んだ。あんまり内容覚えてないけど」

 「わたしもー。へえ、まだ続いてるんだあ。キャラクター、覚えてる? 誰が好きだった?」

 「ゆかちゃんかな。元気いっぱいな感じなんだけど、どこか繊細なところもあって」

 「放っておけないタイプ?」

 「そう。周りの人もそんな感じじゃなかった? ゆかちゃんについていきながらも、なんか心配してる、みたいな」

 「ああ、そうだったねえ。懐かしいなあ。わたしはね、みよちゃんが好きだった」

 「ああ、眼鏡の?」

 「そうそう、おとなしくて引っ込み思案な子」

 「ゆかちゃんのこと大好きなんだよね」

 「そう。カモの子供みたいにくっついてるの。でもなあ、やっぱりヴァレリーも好きだったなあ」

 「誰だっけ?」

 「主人公みたいなものじゃん。魔法使いの美少年だよ。何色も混ざった、“空みたいな目”の人。笑顔の少ないこの世界を悲しんで、自分の魔法でみんなを幸せに、笑顔にしようとやってきたっていう。いい人なんだけど、かなりのドジなんだよね。魔法のことは秘密にしていようって考えるのに、結局この世界にやってきて一発目で、みんなの前で魔法使っちゃうっていう。ドジっていうより、ちょっと、おばかなのかも。でもドジでもあるよね、なんにもないところで転んだりするし」

 「へえ、そんな人だったっけ。なんか魔法使いっていうのは覚えてるけど……」

 みんなを幸せに、笑顔にしようと――。そんな目的のためにやってきた人だったのか。もしかしたらおれの近くにも……なんて考えて、はっとした。間瀬くんじゃないか。間瀬くんはヴァレリーだったのか。

 「なに笑ってるの?」

 「えっ、あっ、いや……。魔法使いって、実は近くにいたりするのかなって」

 「はあ? 近くにいるもなにも、みんなが魔法使いみたいなものでしょ。自分の人生を、どんなふうにもできちゃうんだから」

 ときには他人の人生もね、と、紫乃ちゃんは静かに続けた。

 そして、「魔法使いなんて、どこにだっているよ」と笑った。「わたしの近くにだっているんだから」と、きらきら笑う。

 それはまるで、ここしばらく姿を隠している太陽みたいな笑顔で、春のような暖かさと、心地よさを感じさせる。ふわりとそよ風に乗っているように、柔らかな空気のソファに包まれているように、身も心も軽くなる。