小さな白い門の前で、「お財布持ってくるから待っててよね」と言う紫乃ちゃんを「ゆっくりでいいよ」と見送った。紫乃ちゃんは手早く自転車のスタンドを下ろし、門の中へ入ると、玄関の中へ走っていった。静かに閉まる扉が、少しずつ紫乃ちゃんの背中を隠していく。
ふと、気配とも視線とも言えないものを感じて振り返ったけれど、その先にはなにもなくて、ただ、ひゅん、ひゅんと車が走っているだけだった。
視線を、少し先の地面へ移すと、かたつむりがいた。そしてふと思い出す。かたつむりは、殻を丈夫にするためにコンクリートを食べるらしいと。本当なのかな、とずっと思っていたけれど、その気持ちがもやもやと湧いてきた。コンクリートなんて、どうやって食べるんだろう。よほど強い顎を持っているんだろうか。それとも、なにかコンクリートを溶かすものを出して、溶かしたそれを食べているのだろうか。
細かな雨粒がレインコートを叩くぱらぱらという音をぼんやりと聞きつつ、そんなことを考えていると、「どうしたの?」と紫乃ちゃんの声が言った。
はっとして見ると、紫乃ちゃんはレインコートを着て、隣にいた。
「かたつむりって、コンクリート食べるんだって」
「えっ?」
「本当かどうかはわからないけど、“雑学の石丸さん”っていう呼び名がある近所のおじさんが言ってたんだ。まあ、そのころはおれも五歳とかそれくらいだったから、なにか聞き間違えたのかもしれないけど」
「へええ……え、でも雑学のおじさんが言ってたんじゃ、本当なんじゃない? さすがに、かたつむりがコンクリートを食べるって、聞き間違えなくない?」
「そうなのかなあ……。どうやって食べるんだろう」
「さあ……。よっぽど強ーい顎の持ち主なんじゃない?」
「やっぱりそうなのかな……」
「かたつむりって、すごいんだね」
「うん、すごいんだね」
はは、と乾いた笑いをこぼす紫乃ちゃんにつられて、おれも少し笑った。あの硬いコンクリートをばりばりと食べているのだと思うと、今までのかわいらしいイメージとの差に、おもしろいわけでもないのに、なんだか笑ってしまう。
ふと、気配とも視線とも言えないものを感じて振り返ったけれど、その先にはなにもなくて、ただ、ひゅん、ひゅんと車が走っているだけだった。
視線を、少し先の地面へ移すと、かたつむりがいた。そしてふと思い出す。かたつむりは、殻を丈夫にするためにコンクリートを食べるらしいと。本当なのかな、とずっと思っていたけれど、その気持ちがもやもやと湧いてきた。コンクリートなんて、どうやって食べるんだろう。よほど強い顎を持っているんだろうか。それとも、なにかコンクリートを溶かすものを出して、溶かしたそれを食べているのだろうか。
細かな雨粒がレインコートを叩くぱらぱらという音をぼんやりと聞きつつ、そんなことを考えていると、「どうしたの?」と紫乃ちゃんの声が言った。
はっとして見ると、紫乃ちゃんはレインコートを着て、隣にいた。
「かたつむりって、コンクリート食べるんだって」
「えっ?」
「本当かどうかはわからないけど、“雑学の石丸さん”っていう呼び名がある近所のおじさんが言ってたんだ。まあ、そのころはおれも五歳とかそれくらいだったから、なにか聞き間違えたのかもしれないけど」
「へええ……え、でも雑学のおじさんが言ってたんじゃ、本当なんじゃない? さすがに、かたつむりがコンクリートを食べるって、聞き間違えなくない?」
「そうなのかなあ……。どうやって食べるんだろう」
「さあ……。よっぽど強ーい顎の持ち主なんじゃない?」
「やっぱりそうなのかな……」
「かたつむりって、すごいんだね」
「うん、すごいんだね」
はは、と乾いた笑いをこぼす紫乃ちゃんにつられて、おれも少し笑った。あの硬いコンクリートをばりばりと食べているのだと思うと、今までのかわいらしいイメージとの差に、おもしろいわけでもないのに、なんだか笑ってしまう。



