じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 「ああ、でもさ、紫乃ちゃん?」

 おれは叩かれた腕に残る痛みを感じつつ、言った。

 「なに?」

 「お金、あるの?」

 紫乃ちゃんはぱたりと足を止めた。こちらを見上げる。

 「え?」

 「お金。持ってきてるの?」

 紫乃ちゃんの目が、水に浮かんだ葉っぱのように落ち着かない。

 「えっ……」

 「あの学校、購買部風な一角はあるけど、開いてるの一回も見たことないよね」

 「えっ……と……」

 「いや、おれは持ってきてないってだけで、紫乃ちゃんが持ってきてるなら、全然いいんだけど」

 「べっ、別になにも言ってないし。シャーペンの芯がないから本屋さん行きたいとか、一つも言ってないし」

 なんか文句でも?と言う紫乃ちゃんへ、おれはううんと首を振る。

 「なにも聞いてないよ。だから、まっすぐ帰ろう」

 本屋さんへは、それから行けばいい。

 「でも……」

 「大丈夫。おれは、紫乃ちゃんといられる時間が増えて嬉しいんだ」

 紫乃ちゃんはぷっと噴き出して、「本当に気持ち悪いこと言うね」と笑う。

 おれが「嘘じゃないよ」と言うと、「わかったわかった。本当に変な人」と、また笑った。