じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 部活が終わると、間瀬くんは「やっべ!」と声を上げて、「昨日の夜、姉上に『貴様が食ったあたしのアイス買ってこい』って言われてたんだ」と、慌ただしくバッグの肩紐を掴んで走り出した。「じゃあな」と手を振る彼へ、おれは「気を付けて」と手を振り返す。

 「間瀬のお姉ちゃん、確かに怖いよな」と苦い笑みを浮かべる男子がいて、その隣には、「名前で呼ばないと殺されるぞ?」と少し楽しそうに笑う男子がいる。間瀬くんは本当に自分の名字が嫌いらしい。おれは普通の名字だと思うけどな……。

 バッグを肩にかけて教室を出ると、雑踏の中、間瀬くんの言葉が蘇った。おれの幸せが、紫乃ちゃんの幸せに繋がる――。そんな嬉しいことがあるだろうか。

 紫乃ちゃんは、実際のところ、おれのことをどう思っているんだろう。いきなり告白してきた気持ち悪いやつ? 頼りない?――考えればいくらでも出てくるけれど、それも否定的な言葉。だけど実際、こんな感じだと思う。いつだって、理想と現実は遥かな距離を置いている。

 好き――なんて言ってくれたら、どんなに嬉しいだろう。嬉しすぎて、数秒後には覚えていないかもしれない。意識さえ失ってしまうかもしれない。それらを避けられたとしても、夜は眠れないに決まっている。嬉しくて嬉しくて、涙すら出てくるかもしれない。

 「いつか……言われたいな」

 好き、って。大好き、なんて言ってくれなくていい。愛してる、なんて難しい言葉じゃなくていい。ただ一言、二文字。好き、って、いつか。

言ってくれたらいいな――。