「ペットっているだろ? まあ、おれはこういう言い方好きじゃねえんだけど。動物っているだろ? 一緒に暮らしてる動物。犬とか猫とか鳥とか」
「うん」
「あの子たちって、やっぱりどうしても人間よりも先に逝っちまうだろ? いや、そうでねえとお互いに一番つらい形なんだけどさ。そんで、見送るってなると、やっぱり、動物たちのつらそうな場面とかも見るわけじゃんか。ちょっと体調崩しちまったとか、病気になっちまったとか。
そうすると、見送ったあとに、あのときこうしていればよかったとか、もっと早くどうこうしてればよかったとか、もっとこうしてれば、ああしてればって考えちまうだろ? だけどさ、それって、必要ないことなんだってよ。っていうのも、動物たちは、一緒に暮らしてる間、人間が幸せだったなら幸せなんだって」
「へええ」
「それって、人間同士も同じだと思わねえ? 一緒にいる人が悲しそうだと、なんかこっちまで悲しくなるじゃんか」
「うん……」
「するとさ? おれと一緒にいてもこの人は幸せにはなれない、なんて思ってるやつと一緒にいて、その人は幸せか?」
幸せではないんだろう。だけど――。
「そうしたら? そいつにできることはなんだ?」
「……離れる」
おいこらてめえ、と間瀬くんは前のめりになった。体勢を直しながら、「ちょっと待て」と小さく笑う。「おれの話聞いてた? えっ、おれの話聞いてた?」
「聞いてたよ」とおれも笑い返す。
「嘘ぬかせお前。じゃあなんでそいつにできることが離れることなんだよ」
「一緒にいて幸せじゃないなら、一緒にいないほかないじゃない」
「なんでだよ。動物は、一緒に暮らしてる間、人間が幸せなら幸せなんだよ。それって人間同士でも同じだと思わねえかって話をおれはしたんだ。おう、したんだよ。で? おれと一緒にいてもこの人は幸せにはなれないって思いこんでるやつにできることは?」
間瀬くんはおれの答えを待たずに、「そうだよ」と頷いた。
「そいつ自身が幸せになることだよ。幸せと不幸は伝わるもんなんだよ。うつるわけ、あくびみたいに」
「ああ、そういえばおれ、あくびってうつったことない」
へえそうなんだ、と言ったあと、間瀬くんは「そんなことはどうだっていいんだよ」と大きく右手を振った。
「とにかく、一緒にいる人が幸せだと、その幸せオーラを受け取って、一緒にいるほかの人も幸せになるわけ。だから、お前もアイオと一緒にいたいなら、アイオに幸せになってほしいなら、まずはお前が幸せにならねえと話が始まらねえんだよ」
「でも――」
「『でも』じゃねえ」
「だって――」
「『だって』でもねえ」
「おれ一人が楽しくても……」
「じゃあなんのために告白したんだよ? 少なくともアイオを不幸にするためではないだろ? だったら目的果たさねえと。お前はアイオと一緒にいるだけで幸せなんだろ? アイオと一緒にいて、幸せな時間を過ごすために告白したんだろ? それなのになんで、アイオと一緒にいながら、お前が心の底から幸せでいない? こんなにもったいない話があるか? 穴の中におむすび落として、そっから聞こえてくるかわいい声に気づかず、とぼとぼ家に帰っちまうくらいもったいねえじゃねえか」
「え、なに?」
「おむすびころりんだよ」
いいやこれもどうだっていいんだ、と間瀬くんは大きく右手を振る。
「とにかく! お前はアイオと一緒にいるとき、楽しめ。幸せであれ。いいな? それがアイオの幸せに繋がるんだよ」
そう言って、教室の時計を見ると、間瀬くんは、やっべ、としかめっ面を作った。
「おれ全然描けてねえじゃんか」
お前こういう顔して、と言って、顔を斜めにして、まばたきを繰り返しながら上目遣いをする間瀬くんを笑いながら、おれは姿勢を整えた。
そうしたら「おお、いいじゃん」とまじめな様子で言われて、まさか普通にしているのが間瀬くんにはああ見えているわけではないだろうなと少し不安になった。
「うん」
「あの子たちって、やっぱりどうしても人間よりも先に逝っちまうだろ? いや、そうでねえとお互いに一番つらい形なんだけどさ。そんで、見送るってなると、やっぱり、動物たちのつらそうな場面とかも見るわけじゃんか。ちょっと体調崩しちまったとか、病気になっちまったとか。
そうすると、見送ったあとに、あのときこうしていればよかったとか、もっと早くどうこうしてればよかったとか、もっとこうしてれば、ああしてればって考えちまうだろ? だけどさ、それって、必要ないことなんだってよ。っていうのも、動物たちは、一緒に暮らしてる間、人間が幸せだったなら幸せなんだって」
「へええ」
「それって、人間同士も同じだと思わねえ? 一緒にいる人が悲しそうだと、なんかこっちまで悲しくなるじゃんか」
「うん……」
「するとさ? おれと一緒にいてもこの人は幸せにはなれない、なんて思ってるやつと一緒にいて、その人は幸せか?」
幸せではないんだろう。だけど――。
「そうしたら? そいつにできることはなんだ?」
「……離れる」
おいこらてめえ、と間瀬くんは前のめりになった。体勢を直しながら、「ちょっと待て」と小さく笑う。「おれの話聞いてた? えっ、おれの話聞いてた?」
「聞いてたよ」とおれも笑い返す。
「嘘ぬかせお前。じゃあなんでそいつにできることが離れることなんだよ」
「一緒にいて幸せじゃないなら、一緒にいないほかないじゃない」
「なんでだよ。動物は、一緒に暮らしてる間、人間が幸せなら幸せなんだよ。それって人間同士でも同じだと思わねえかって話をおれはしたんだ。おう、したんだよ。で? おれと一緒にいてもこの人は幸せにはなれないって思いこんでるやつにできることは?」
間瀬くんはおれの答えを待たずに、「そうだよ」と頷いた。
「そいつ自身が幸せになることだよ。幸せと不幸は伝わるもんなんだよ。うつるわけ、あくびみたいに」
「ああ、そういえばおれ、あくびってうつったことない」
へえそうなんだ、と言ったあと、間瀬くんは「そんなことはどうだっていいんだよ」と大きく右手を振った。
「とにかく、一緒にいる人が幸せだと、その幸せオーラを受け取って、一緒にいるほかの人も幸せになるわけ。だから、お前もアイオと一緒にいたいなら、アイオに幸せになってほしいなら、まずはお前が幸せにならねえと話が始まらねえんだよ」
「でも――」
「『でも』じゃねえ」
「だって――」
「『だって』でもねえ」
「おれ一人が楽しくても……」
「じゃあなんのために告白したんだよ? 少なくともアイオを不幸にするためではないだろ? だったら目的果たさねえと。お前はアイオと一緒にいるだけで幸せなんだろ? アイオと一緒にいて、幸せな時間を過ごすために告白したんだろ? それなのになんで、アイオと一緒にいながら、お前が心の底から幸せでいない? こんなにもったいない話があるか? 穴の中におむすび落として、そっから聞こえてくるかわいい声に気づかず、とぼとぼ家に帰っちまうくらいもったいねえじゃねえか」
「え、なに?」
「おむすびころりんだよ」
いいやこれもどうだっていいんだ、と間瀬くんは大きく右手を振る。
「とにかく! お前はアイオと一緒にいるとき、楽しめ。幸せであれ。いいな? それがアイオの幸せに繋がるんだよ」
そう言って、教室の時計を見ると、間瀬くんは、やっべ、としかめっ面を作った。
「おれ全然描けてねえじゃんか」
お前こういう顔して、と言って、顔を斜めにして、まばたきを繰り返しながら上目遣いをする間瀬くんを笑いながら、おれは姿勢を整えた。
そうしたら「おお、いいじゃん」とまじめな様子で言われて、まさか普通にしているのが間瀬くんにはああ見えているわけではないだろうなと少し不安になった。



