じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 「いやあ、おもしろいものが見られたなあ」と、間瀬くんは嬉しそう。彼は階段に隠れていた。姿を見つけてすぐに、拳が彼のお腹へ飛んでいった。「そう怒るなよ」と間瀬くんは笑っていたけれど、怒らずにはいられない。

 廊下を歩きながら、間瀬くんはまたぶはははと笑い出した。

 「『本当は、シノちゃんが怒ってる理由、わかってるんだ……』って。あっはははっ、はっ、うふふ……」

 間瀬くんはお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。前へ進む足がおぼつかない。

 「わかってるんだ、て。わかってんなら早く解消しろっつーの。はははっ」

 「うるさいなあ。状況を変えるっていうのは勇気が必要なんだよ」

 「勇気だあ? そんなもん、本当に必要ならちゃっちゃと出しゃあいいだろうが。あんな泣きそうな声でさ、『わかってるんだ、でも……』とか言ってないでさ」

 あははは、と間瀬くんはまだ笑う。

 「『わかってるんだ』ってくるとは思わなかったなあ。いやまじで。だって、だってさ、わかってるならさ……はははっ。わかってるなら、直せばよくね? んふっ、それをさ、変えないで……あっははははは!」

 「腰辺り蹴ってもいいかな」

 「はははは、怖いこと言うんじゃないよ、そんなっ、そんなことしたら、痛いじゃんか」

 あっはははは、とまだ楽しそう。

 かと思えば、「つか、お前さ」と、至ってまじめな声を発する。こちらを振り返る顔も、今は少しも笑っていない。

 「本当にわかってんの?」

 「……わかってるよ。紫乃ちゃんは、おれのこと、好きじゃないんだよ。なんとも思ってない……いや、むしろ、嫌いなんだと思う」

 「へえ?」

 「だから、一緒にいない方がいいんだよ」

 「ほう」

 「でも……」

 「おっ、出た。『でも……』ってね。いやあ、続き聞きたかったわあ」

 ははは、とまた笑い出す。

 「でも……」

 けれど、すぐに笑みを消す。「でも?」と、ちゃんと聴いてくれる。少し後ろを歩くおれを体ごと振り返って、まっすぐに見ている。

 「おれは……おれは……」

 相手は間瀬くんなのに、紫乃ちゃんではないのに、言葉が出てこない。それだけ、自分のわがままさを理解しているんだ。

 「あいつと一緒にいたいんだろ?」

 そう言った間瀬くんの声は、とても優しかった。