「いやあ、おもしろいものが見られたなあ」と、間瀬くんは嬉しそう。彼は階段に隠れていた。姿を見つけてすぐに、拳が彼のお腹へ飛んでいった。「そう怒るなよ」と間瀬くんは笑っていたけれど、怒らずにはいられない。
廊下を歩きながら、間瀬くんはまたぶはははと笑い出した。
「『本当は、シノちゃんが怒ってる理由、わかってるんだ……』って。あっはははっ、はっ、うふふ……」
間瀬くんはお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。前へ進む足がおぼつかない。
「わかってるんだ、て。わかってんなら早く解消しろっつーの。はははっ」
「うるさいなあ。状況を変えるっていうのは勇気が必要なんだよ」
「勇気だあ? そんなもん、本当に必要ならちゃっちゃと出しゃあいいだろうが。あんな泣きそうな声でさ、『わかってるんだ、でも……』とか言ってないでさ」
あははは、と間瀬くんはまだ笑う。
「『わかってるんだ』ってくるとは思わなかったなあ。いやまじで。だって、だってさ、わかってるならさ……はははっ。わかってるなら、直せばよくね? んふっ、それをさ、変えないで……あっははははは!」
「腰辺り蹴ってもいいかな」
「はははは、怖いこと言うんじゃないよ、そんなっ、そんなことしたら、痛いじゃんか」
あっはははは、とまだ楽しそう。
かと思えば、「つか、お前さ」と、至ってまじめな声を発する。こちらを振り返る顔も、今は少しも笑っていない。
「本当にわかってんの?」
「……わかってるよ。紫乃ちゃんは、おれのこと、好きじゃないんだよ。なんとも思ってない……いや、むしろ、嫌いなんだと思う」
「へえ?」
「だから、一緒にいない方がいいんだよ」
「ほう」
「でも……」
「おっ、出た。『でも……』ってね。いやあ、続き聞きたかったわあ」
ははは、とまた笑い出す。
「でも……」
けれど、すぐに笑みを消す。「でも?」と、ちゃんと聴いてくれる。少し後ろを歩くおれを体ごと振り返って、まっすぐに見ている。
「おれは……おれは……」
相手は間瀬くんなのに、紫乃ちゃんではないのに、言葉が出てこない。それだけ、自分のわがままさを理解しているんだ。
「あいつと一緒にいたいんだろ?」
そう言った間瀬くんの声は、とても優しかった。
廊下を歩きながら、間瀬くんはまたぶはははと笑い出した。
「『本当は、シノちゃんが怒ってる理由、わかってるんだ……』って。あっはははっ、はっ、うふふ……」
間瀬くんはお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。前へ進む足がおぼつかない。
「わかってるんだ、て。わかってんなら早く解消しろっつーの。はははっ」
「うるさいなあ。状況を変えるっていうのは勇気が必要なんだよ」
「勇気だあ? そんなもん、本当に必要ならちゃっちゃと出しゃあいいだろうが。あんな泣きそうな声でさ、『わかってるんだ、でも……』とか言ってないでさ」
あははは、と間瀬くんはまだ笑う。
「『わかってるんだ』ってくるとは思わなかったなあ。いやまじで。だって、だってさ、わかってるならさ……はははっ。わかってるなら、直せばよくね? んふっ、それをさ、変えないで……あっははははは!」
「腰辺り蹴ってもいいかな」
「はははは、怖いこと言うんじゃないよ、そんなっ、そんなことしたら、痛いじゃんか」
あっはははは、とまだ楽しそう。
かと思えば、「つか、お前さ」と、至ってまじめな声を発する。こちらを振り返る顔も、今は少しも笑っていない。
「本当にわかってんの?」
「……わかってるよ。紫乃ちゃんは、おれのこと、好きじゃないんだよ。なんとも思ってない……いや、むしろ、嫌いなんだと思う」
「へえ?」
「だから、一緒にいない方がいいんだよ」
「ほう」
「でも……」
「おっ、出た。『でも……』ってね。いやあ、続き聞きたかったわあ」
ははは、とまた笑い出す。
「でも……」
けれど、すぐに笑みを消す。「でも?」と、ちゃんと聴いてくれる。少し後ろを歩くおれを体ごと振り返って、まっすぐに見ている。
「おれは……おれは……」
相手は間瀬くんなのに、紫乃ちゃんではないのに、言葉が出てこない。それだけ、自分のわがままさを理解しているんだ。
「あいつと一緒にいたいんだろ?」
そう言った間瀬くんの声は、とても優しかった。



