じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 ふと、紫乃ちゃんの唇が動いた。

 「あいえうお?」

 唇の動きを繰り返すと、「は?」と間瀬くんの声が言った。

 「なにか言ってる」

 「どれどれ?」と間瀬くんが再び覗き込むころには、紫乃ちゃんは席を立っていた。

 「あれ、いなくなってる」と間瀬くんののんきな声が言う。

 がらりと後ろの扉が開くと、紫乃ちゃんが出てきた。ぎくりとしただけで心の中でも叫べず、ただ心臓がどきどきと騒ぐ。

 「なにしてんの?」

 「えっ、あっ、いや……」

 「誰かに用?」

 「いや、ちょっと、あの……」

 助けを求めて振り返るも、間瀬くんの姿はなくなっていた。教室に戻ったら絶対に殴る。おもしろい反応がないとしても、絶対に殴る。

 「なに?」

 「紫乃ちゃん……元気かなって……」

 「別に……元気だけど」

 「うん……」

 「あいつは?」

 「あいつ?」

 「一緒にきてた男。教室、すごいざわついてたよ。あの人がきた瞬間。なんなんだろうねって」

 「ごめん……」

 「なんでそっちが謝るの? 関係ないじゃん」

 「うん……」

 言いながら、本当にそうだろうかと疑問が湧いた。

 「あの、おれね」

 「うん?」

 「本当は、紫乃ちゃんが怒ってる理由、わかってるんだ」

 「え?」

 「わかってるん……だ。でも……」

 おれはわがままだから。紫乃ちゃんには笑っていてほしいし、幸せでいてほしいけれど、それがおれ以外の人のそばでは、少し嫌だったりする。

 「でも……」

 「でも?」

 今の状態が、紫乃ちゃんにとって――。

 チャイムが鳴った。昼休みは終わりだと、早く教室へ戻れと、そう言っている。繰り返し、繰り返し、言っている。

 一つ、自分にも聞こえないような声で謝って、おれは教室へ向かった。