「彼女、二組って言ったな」

 「うん」

 もう、避けられないと思った。間瀬くんには隠せない。

 ふと、「安心しろ」と間瀬くんは言った。

 「おれは、誰が誰を好きであろうと、誰が誰と付き合っていようと、誰にも話さない。そんな趣味はない」

 「うん……」

 間瀬くんが教室の前で足を止めた。一年二組の教室だった。

 「そんで?」と間瀬くんは言う。

 「アイオって言ったな」と、途端に嫌な笑みを浮かべて、窓に張り付く。「誰だ誰だ? アイオって。中にいるか?」

 おれは間瀬くんの制服の首を掴んで引っ張った。

 「ふざけないで。やめろ、離れろって」

 「いいじゃんかいいじゃんか、誰だよ、アイオって」

 「うるさい黙れ、もう帰るよ」

 「なに言ってんだよ、せっかくここまできたんだ、様子見ていこうぜ?」

 「ふざけんな、やっぱり間瀬くんの好奇心できたのかよ」

 もう戻るよ、と、どれだけ引っ張っても、間瀬くんの体はびくともしない。なんだこの人、鉄塊でもまとっているのか。

 「おっ、なんかすげえこっち見てる女子が三人いるぜ。そのどれかだな」

 「こんな大騒ぎしてれば誰だって見るよ」

 むしろよく三人で済んでいるものだ。